死ぬまでにしたい10のこと

いつでも誰でも生きなおすことができる
涙が心を洗う、この秋イチ押しの良作!!!

  • 2003/09/22
  • イベント
  • シネマ
死ぬまでにしたい10のこと

こんなに誠実な作品には、なかなかめぐりあうことはない……!くだらなくとも、たまらなくいとおしい感覚。理性や常識では割り切れない、人が人である所以。言葉では表しきれない感覚的なものを最初から最後まで、ひたすら表しつづけている。異才の監督ペドロ・アルモドバルが全面プロデュース、イザベル・コヘットが監督・脚本を手がけた『死ぬまでにしたい10のこと』(原題『my life without me』)である。

死ぬまでにしたい10のこと

23歳のアンはやさしい夫と2人のかわいい娘とトレーラー暮らし。裕福ではないが、それなりに幸せに暮らしていた。しかしある日倒れて病院で検査を受けた結果、ガンで余命2ヶ月と宣告される。ショックを受けながらも家族や友人にはそれを隠し、自分がいなくなった後の生活を整えるべく準備を始め、“死ぬまでにしたい10のこと”を書き出してひとつひとつ実行してゆく。

死ぬまでにしたい10のこと

不治の病に冒されたヒロイン、という王道のモチーフを扱いながらも暗さはなく、悲劇的な重さもない。涙で心が洗われて、観た後は気分が軽くなる。とても不思議な映画だ。

せつない気分にさせるのは、登場人物たちそれぞれのエピソード。家財一式をもって家を去った恋人が戻ってくることを考えて家具を買えない男、死にゆくシャム双生児の赤子を腕に抱いて息が絶えるまでの48時間、歌を歌いつづけた看護婦、何も知らない友人に吐く理由を問われて、子供の頃からの悲しかった思い出=心に巣くう悲しみの源を一気に吐き出すアン……。客観的に理屈で考えればまるで意味のないことでも、そうせずにはいられない。誰にでもあること。それでいい。それこそが私たちなのだから――観ていると、そう思わせてくれる。本作のすべてが、ありのままでいることを全面的に受け入れている。観ていると、“許されている”ことを感じるのだ。

死ぬまでにしたい10のこと

また全編に漂うノスタルジックなムードが、観客をふわりと独特の世界観へと引き込む。アンの日常に白昼夢のようにフラッシュで入り込んでくる映像やサウンドの数々は、観る者の意識を遠く近いところへと連れ去る。人の心の奥にある懐かしい場所を響かせるからだ。

本当は、誰でもアンのように生きることができる。どんなにつらくても絶望していても、生きなおすことはいつでもできる。そんなメッセージがくっきりと浮かび上がってくる、とても良質で大切にしたくなる作品。小品だが、この秋イチ押し!!!の良作だ。

作品データ

死ぬまでにしたい10のこと
公開 2003年11月25日よりヴァージンシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー
制作年/制作国 2002年 スペイン・カナダ
上映時間 1:45
配給 松竹
監督・脚本 イザベル・コヘット
エグゼクティブ・プロデューサー ペドロ・アルモドバル
出演 サラ・ポーリー
マーク・ラファロ
スコット・スピードマン
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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