血と骨

激烈な暴力と金銭欲と肉欲をして、
大正末期の大阪を生きた在日朝鮮人の半生
壮絶なベストセラー小説を見事に映画化!

  • 2004/09/17
  • イベント
  • シネマ
血と骨

ただただ圧倒される、悪夢のような暴力沙汰と、生々しい肉欲の世界。映画監督・世界のキタノがいち俳優のビートたけしとして、14年ぶりに主演を果たした話題作。1998年に第11回山本周五郎賞を受賞した梁石日(ヤン・ソギル)氏の自伝的小説を、在日朝鮮人2世である崔洋一(サイ・ヨウイチ)監督が映画化。梁石日氏の原作×崔洋一監督のタッグは、53もの映画賞を受賞した1993年の映画『月はどっちに出ている』に続いて2作目。構想や取材に6年、脚本を20数回も書き直してようやく完成したという、結晶のような作品である。

1920年代の大正末期、韓国の済州島から大阪へ渡ってきた金俊平(たけし)は、蒲鉾工場を立ち上げて大金持ちとなる。が、酒を呑んでは暴力をふるい、妻の英姫(鈴木京香)や子供たちはいつも怯えて暮らしていた。俊平の身勝手さゆえ、よその人妻と通じてできた息子、脳腫瘍を患った美しい愛人、4人の子供を産んだ2人目の愛人などの存在や、激しさを増す暴力は家族を苦しめ、彼らの暮らしは破綻していく。

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激烈な暴力によって人々を隷属させ、金、女、酒を貪欲にむさぼり続け、欲望の権化として生きた恐るべき男の壮絶な半生。ためらいなく斧を振り下ろすたけしの姿はまるで『13日の金曜日』のジェイソンばり。濡れ場ではエロなんて軽い言葉じゃ表せないほど生々しく泥臭い、本物の官能があった。
 「これまでで一番激しく、一生懸命やった。この作品は俺の記念碑的なものになる」と語ったのは、俊平役を演じたビートたけし。撮影中はワークアウトを続けて身体を作り、暴力と抗いがたい悪魔的な魅力で周囲を圧倒する俊平を怪演。見事なハマり役だった。愛人の世話はマメにする、巨万の富を得ても食事は市場の野菜くず、と自らの主義に従って常識や世間体に囚われない姿は、なぜか憎みきれない。

血と骨

試写が始まる前、崔洋一監督が舞台挨拶に立ち、とてもにこやかに穏やかに、ちょっとシャイな感じで話をしていた。観終わった後、「この壮絶な物語をあのひとが撮ったのか」と、不思議な気分になった。また原作者の梁石日氏も、一風変わっていらっしゃる。29歳で事業に失敗して全国を放浪し、東京でタクシードライバーを10年務めた後、作家デビュー。作家として成功を収める以前のことを振り返り、「20数年の間ほとんど本も読まず、文学のことなど考えたこともなく、別になんの不自由もなかった」と、さらりと言ってのける。なんだか小気味いいのだ。2人とも、煮えたぎるものを常に内側にもっていながら、それを自分で外から眺めて面白がっている感覚があるよう。だからこそ本作のように、猛烈なエネルギーをガツンと感じさせる作品を作り上げることができるのかもしれない。人間が本来もっている、下品で野蛮な生き抜くための底力。それは、一般的な良し悪しの評価などは、一瞬で飛び越えてしまう。

血と骨

近ごろ映画では本作や『モーターサイクル・ダイアリーズ』、TVでは『人間の証明』など、革命や全共闘運動といった1950〜60年代の混沌とした時代をリアルに感じさせる、良質な作品が多い。漠然とアウトラインだけ知っていた事実が、当時の風潮や人々の姿と相まってくっきりと伝わってくるのは、とても新鮮だ。自分のルーツである親や祖父母が体験した青春をドラマとして楽しみつつ、時代の姿を知る。引き続き、そうした作品に注目してみようと思う。

作品データ

血と骨
公開 2004年11月6日公開
丸の内プラゼールほか全国ロードショー
制作年/制作国 2004年 日本
上映時間 2:24
配給 松竹、ザナドゥー
監督 崔洋一
脚本 崔洋一、鄭義信
原作 梁石日『血と骨』
出演 ビートたけし
鈴木京香
新井浩文
田畑智子
松重豊
北村一輝
國村隼
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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