オールド・ボーイ

思いもよらない顛末に目をむく異色の傑作
熱い支持でカンヌがグランプリを与えた
日本漫画を極限ギリギリに脚色した韓国映画

  • 2004/10/08
  • イベント
  • シネマ
オールド・ボーイ

クオリティの高さから、2004年カンヌ国際映画祭に急遽正式出品が決定。審査では2票差で惜しくも『華氏911』にパルムドールを譲り、グランプリを受賞した韓国映画。原作は1996〜'98年に『漫画アクション』で連載された、作・土屋ガロン、画・嶺岸信明による同名の日本の漫画。それを韓国で映画評論家としても信頼が高く、監督としては『JSA』で成功を収めたパク・チャヌクが映画化した。2重3重に封印された謎、巧妙に仕掛けられた罠、予定調和への導き、そして――。復讐劇とサスペンスを一分のスキもなく練り合わせた濃密な物語の幕が、今ここに上がる。

ある晩、泥酔していた平凡なサラリーマンのオ・デスは、妻子と電話で話した直後、忽然と姿を消す。気づくと彼は見知らぬ部屋で、完璧に監禁されていた。1年2年と月日が過ぎ、理由もわからず、自殺も発狂も許されず、ただただテレビとともに日々を無為に過ごすのみ。いつしか彼は、部屋を脱走し、自分を監禁した者に復讐することだけを生きがいに身体を鍛え始める。そして監禁から15年たったある日、あっさりと解放された彼は復讐を実行すべく、行動を開始する。

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観終わった直後は、瞳孔が開きっぱなし。強烈なショックを覚え、頭の中は「すごい、すごい」という言葉でいっぱいになった。コミカルな間合いやユニークな映像表現などの弛緩させるシーンもふんだんにありながら、締め上げるところはハンパなし。観ているだけで、くびられそうな気分になるほど。観に行くなら、体力のあるときを切におすすめしたい。

クライマックスでは、いきなり横っ面を張り手されたかのような衝撃を食らった。しかも謎解きで、行為で、視覚で、聴覚で、強弱を効かせた波状攻撃で、それは繰り返し繰り返し襲ってくる。そしてラスト、人によって抱く感情にかなりの幅があるだろう。私は、なぜか腑に落ちた。理不尽さや憤りは特に抱かなかった。酷い経験を乗り越えるうちに、いつのまにか人の枠をも越えてしまう。罪も罰も及ばない、超自然の域に思えた。
 「復讐は健康にいい。やってみろ」。不遜なことをおだやかに言い放つ謎の男ウジンを演じたユ・ジテ、主人公を支えるけなげな女性ミド役のカン・ヘジョン、そして復讐に燃える男デスを演じ、確かな演技力に加えてエキセントリックな新境地を開拓したチェ・ミンシクと、俳優3人は相乗効果で魅力が倍増。観客を非日常の異様な世界へと強力に牽引する。

オールド・ボーイ

意外性に感心したのは、オ・デスがうごめく小ぶりの活き蛸を丸ごと食べるシーン。なんのトリックもなく、あれだけの不気味さを出せたのは、まさしくアイディアの勝利。ただ、あのシーンのためにミンシクは生きたままの蛸を4匹も食べたというから、ご苦労様だ。

哀しげなワルツの調べに乗せて展開する、追いつ追われつの復讐劇。原作の漫画とは結末が違うため、映画が先でも漫画が先でも、お楽しみは2通りあるのだそう。カンヌ受賞前、すでにハリウッドの大手製作会社ユニバーサル・ピクチャーズが高額でリメイク権を取得。主演にはジョニー・デップやブラッド・ピットも有力候補に……ということなどはまだ、先のお話。今は日本で漫画として生まれ、韓国で映像に育った傑作の完成を喜びたい。アジア系ならではの粘着質な妄執や怨念が、果たして西洋人に表現できるかな? などと、アジア万歳な気分である。

作品データ

オールド・ボーイ
公開 2004年11月6日公開
シネマスクエアとうきゅう、有楽町スバル座ほか全国拡大ロードショー
制作年/制作国 2003年 韓国
上映時間 2:00
配給 東芝エンタテインメント
監督・共同脚本 パク・チャヌク
原作 『オールド・ボーイ』作・土屋ガロン、画・嶺岸信明
出演 チェ・ミンシク
ユ・ジテ
カン・ヘジョン
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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