気鋭の人気作家・市川拓司のベストセラーを
TV界のヒットメーカー土井裕泰が映画化
乾いた心をしっとりと潤す、切なくて温かい物語
1997年からインターネット上に小説を発表し、TVドラマ化された『Separation(ドラマタイトルは『14ヶ月〜妻が子供に還っていく〜』)』、映画化された『恋愛寫眞―もうひとつの物語』の作者として知られる気鋭の作家、市川拓司氏。2003年の発売から45万部を突破した市川氏のベストセラー『いま、会いにゆきます』が、充実のスタッフとキャストによって映画化された。哀しく、切なく、そしてとても温かい、泣かせる物語である。
秋穂巧(中村獅童)は妻の澪(竹内結子)を亡くし、6歳の息子・佑司と2人暮らし。彼らは澪が生前に残した、「1年後の雨の季節に戻ってくる」というメッセージを漠然と信じて暮らしていた。そして1年後の梅雨を迎えた日、森の奥にある廃倉庫で父子がいつものように遊んでいると、2人の前に忽然と澪が現れる――。
とにかく切ない。すべてに思いが満ちている。映像、トーン、音楽と、さまざまな雨の表情を中心に全編に流れる空気感だけで、もう泣かせる。「なんて泣かせる気マンマンな〜」などと頭で冷静に考えてはいても、身体が感応してしまい、上映時間の70%は涙が流れっぱなしだった。
とうとうと涙しつつも途中までは、『死ぬまでにしたい10のこと』『アイ・アム・サム』『世界の中心で、愛をさけぶ』を足して3で割ったような、美味しい内容だなぁ、などと不埒なことを考えたりもしていた。しかし最後の最後で鮮やかな展開に驚かされ、原作者・市川拓司氏の背景を知ったとき、そんな俗っぽい考えをかなり恥じた。登場人物の巧が患う病は、市川拓司氏の抱える“不具合”に近いものなのだそう。本作に寄せるメッセージとして、このように語られていた。「とくに自分の『病気』に関して、さらに踏み込んで書いてみたいという欲求がぼくにはありました。ただ、あまりにしんどい話なので、それまでの文体では、どうにもやり切れなくなってしまう。<中略>自由にならないことはいろいろあるけど、多くを望まなければ、そこそこ心地よく暮らしていけるもの、ってそんな話です」。そして現実の暮らしでも物語と同様、奥様とお子さんから“たっくん”と呼ばれているとのこと。なんだかそれも、「すごくいいな」と思った。
監督は『愛していると言ってくれ』『ビューティフルライフ』などの人気ドラマを手がけ、今回が初メガホンとなる土井裕泰。脚本は『ちゅらさん』1〜3すべてを担当する岡田惠和。撮影や舞台デザインなどさまざまなスタッフに実力派の面々を起用し、しっとりと包み込むかのような世界を丁寧に作り上げている。
また、劇中に登場する絵本『おぼえていてね アーカイブ星ものがたり』は、作・市川拓司/絵・こじまさとみ にて10月18日に実際に発刊。この絵本の1ページ1ページを映画のエンドロールで映し、ときには絵に動きをプラスして見せるなど、上映時間の最後まで浸れるように工夫されていた点もよかった。
本作のタイトルを入力するとき、打ち損じた上にワードが漢字変換を間違えて、こんな風に打ち出された。「いま、愛に生きます」。なんとロマンティックな……。タイトルの奥には、こうした意も含まれているのだろうか。最初から最後まで、慈愛のような念をひしひしと感じさせる本作。あふれる涙で心身を浄化する、セルフヒーリング効果も期待できそうな良作である。
公開 | 2004年10月30日公開 全国東宝邦画系にてロードショー |
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制作年/制作国 | 2004年 アメリカ |
上映時間 | 1:58 |
配給 | ギャガ・ヒューマックス共同 |
監督 | 土井裕泰 |
脚本 | 岡田惠和 |
出演 | 竹内結子 中村獅童 武井証 平岡祐太 大塚ちひろ 小日向文世 |
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