奇才チャーリー・カウフマンが綴る愛の逆回転劇
ハリウッド俳優や全米のマスコミをうならせた
恋する者すべてに贈る異色のラブ・ストーリー
異才の脚本家チャーリー・カウフマンが3年かけて仕上げた最新作。出演はコメディアン出身のジム・キャリーに『タイタニック』のケイト・ウィンスレット、『ロード・オブ・ザ・リング』のイライジャ・ウッドに『スパイダーマン』のキルティン・ダンスト、と人気俳優がこぞって参加。決して一筋縄ではいかない、SF的エッセンスを取り入れた風変わりなラブ・ストーリーである。
彼女のクレメンタインとケンカ別れしたジョエルは、彼女が自分との記憶を消去した、という不可解な通知を受け取る。それは辛く悲しい記憶を消し去る、という施術を開発したクリニックからだった。彼女の仕打ちに大ショックのジョエルはそのクリニックを訪れ、自分も彼女の記憶を消去することに。彼女との思い出の品をまとめ、記憶消去の作業が始まるが……。
逆回転で綴られるジョエルとクレメンタインの恋。なぜなら物語の半分は、記憶をさかのぼりつつ徐々に消されていくジョエルの頭の中の出来事。お互いの欠点をあげつらうケンカ別れ直前から、数々の楽しい思い出、ほのぼのとした出会いのときまで。思い出をさかのぼるうちにジョエルは、やっぱり記憶を消したくない! と意識下でもがきだすが、睡眠薬で眠っている身体は無抵抗のまま施術を受け続ける。果たして彼は、大切な記憶を留めることができるのだろうか?
カウフマンの作品は、いつも自己嫌悪の男が主人公。どことなく彼自身が反映されているような、青っぽくて熟しきらない、生々しい感覚がある。日々のジレンマから想像力を振り幅いっぱいに増幅させて生まれる、妄想や幻想が交錯する不思議な世界だ。何かとシニカルな展開が多い彼の作品にしては珍しく、今回は全体的にどこかスウィート。本作は原案から、ミシェル・ゴンドリー監督とともに作り込んでいったからのようだ。監督はもともとビョークなどミュージシャンのPV製作で知られる、独自のセンスと視点をもつMTVの映像作家。脚本カウフマン×監督ゴンドリーでやや不発だった『ヒューマンネイチュア』とは異なり、今回は2人の才能を生かし合い、じっくりと練り上げて製作することができたのだろう。
凍てついた川に寝そべって星を見る、雪の降り積もる海辺を走る……楽しい思い出のシーンは、ちょっとしたおとぎ話のよう。真っ赤な髪の派手な彼女とニット帽の地味な彼がじゃれあう姿はなんだかいとおしい。また旅行先で買ったスノーボールや一緒にお金を貯めていた貯金箱など、思わず「あるある」と頷いてしまうようなアイテムが登場するのも共感を誘う。
原題は『ETERNAL SUNSHINE OF THE SPOTLESS MIND(潔白な心の永遠の輝き)』。誰の心にも必ずあるはずの純真な部分、というニュアンスだろうか。恋をすると、多くの人は無防備でむきだしで、相手との関係に浸る。ただ、そこに付け入って騙す輩が少数であっても確実に存在することを知っているためか、この物語に全面的に入り込むことのできない自分が少し悲しかった。ジョエルとクレメンタインのSPOTLESS MINDSは、対岸のカーニバルのようにキラキラと瞬いて見えた。
本作はきっと、いま恋をしている、もしくは恋を信じられるなら必ず楽しめる作品だろう。そして今はまだ、遠くから眺めるようにしかこの作品を観られない人にとっても、心のどこかをやわらかく響かせる。そんな甘すぎない恋の話である。
公開 | 2005年3月19日公開 丸の内ピカデリー2ほか全国松竹・東急系ロードショー |
---|---|
制作年/制作国 | 2004年 アメリカ |
上映時間 | 1:47 |
配給 | ギャガ、ヒューマックス |
監督 | ミシェル・ゴンドリー |
脚本 | チャーリー・カウフマン |
原案 | ミシェル・ゴンドリー チャーリー・カウフマン ピエール・ビスマス |
出演 | ジム・キャリー ケイト・ウィンスレット キルスティン・ダンスト イライジャ・ウッド |
記載内容は取材もしくは更新時の情報によるものです。商品の価格や取扱い・営業時間の変更等がございます。