ケヴィン・スペイシーが自らの企画を遂に実現
徹底した役作りで名曲の数々を熱唱
1960年代を鮮やかに彩ったエンターテイナーの真実
2度のアカデミー賞受賞で知られる俳優ケヴィン・スペイシーが製作、監督、主演。ポピュラー音楽歌手や映画俳優として主に1960年代に活躍し、37歳で他界したエンターテイナー、ボビー・ダーリンの生涯を描く伝記映画。スペイシーが10年以上かけて映画化を実現した作品だけあって、衣裳や音楽などディテールまでしっかりと作りこまれた綺麗な作品である。
若い頃に歌手だった母から手ほどきを受け、音楽に目覚めた少年ボビー。子供のときに高熱で心臓を傷めた彼は、“15歳まで生きられない”と診断されつつも、NYでプロの歌手を目指して活動を開始。そして1958年、自作の曲「スプリッシュ・スプラッシュ」で遂にブレイク。映画出演、年の離れた若い映画スターのサンドラと結婚、憧れの高級ナイトクラブ「コパカバーナ」への出演と、順調な暮らしはずっと続くかのように思えたが……。
本作の見どころはやはり、スペイシーが歌うボビーの名曲の数々。ボビーのことをさほど知らずともきっと耳なじみのある「beyond the sea」といった有名な美しい曲をはじめ、ポップスやジャズなどたくさんの魅力的な曲を味わうことができる。役作りのためにボビーのレコードを聴きこみ、歌の練習と録音を4年間し続けて本作に臨んだというスペイシー。その努力の甲斐あって、本作では20曲のナンバーすべてを吹き替えナシで披露。ボビー本人の歌声を知る人々からも賞賛を受けたのだそう。また、“オリジナルの歌声を使わない作品には協力しない”という固い信念をもっていたボビーの元マネージャー、スティーヴ・ブラウナーも、スペイシーの熱心な姿勢に心を動かされて本作に参加。当時のレコーディングで実際に使われた音源や未発表曲の提供を受けて作られた劇中のサウンドは、名プロデューサーのフィル・ラモーンや音楽史研究家ジョン・ウィルソンの尽力も相まって、聴きごたえのある仕上がりとなっている。
そして衣装のバリエーションも面白い。'40年代のクラシックテイスト、60年代のハリウッドを彩るエレガントなファッション、70年代を代表するヒッピー・スタイルまで、時代の移り変わりがファッションの変遷とともにわかりやすく描かれているところも興味深い。
実はこの作品は、2004年12月から公開中の映画『五線譜のラブレター』に雰囲気がそっくり。どちらもいい俳優陣による良心的な作品のため、一方が悪い、真似したのでは、という思いは抱かなかったが、とにかく本当によく似ている。成功した音楽家の波乱に満ちた生き様という内容、演技派の主演俳優による真摯な役作り、吹き替えナシの歌声、ミュージカルを織り交ぜた展開などなど。とはいえ、後半部分にあっと驚く事実を告げること、最後に今もアメリカでボビーとの思い出を胸に暮らす夫人の現在を添えるところなど、展開の抑揚や後味の良さは本作の方がやや上かもしれない。
第62回ゴールデン・グローブ賞では主演男優賞ミュージカル/コメディ部門にて、これらの作品でスペイシーとケビン・クラインのWケビンが、また『Ray/レイ』のジェイミー・フォックスが選出され、ノミネート5人のうち奇しくも3人が音楽家の伝記映画の主演俳優。ちなみにここでは結局、2月末に発表される第77回アカデミー賞の主演男優賞でも有力候補といわれている、ジェイミー・フォックスが受賞を果たした。
スペイシーの徹底したなりきりぶりが大いに見物の本作。リアルタイムでは知らない素敵な人をまたひとり知ることができた……と、ちょっといい気分になれる映画である。
公開 | 2005年2月26日公開 シネスイッチ銀座ほか全国拡大ロードショー |
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制作年/制作国 | 2004年 アメリカ |
上映時間 | 2:01 |
配給 | 配給 |
監督・制作 | ケヴィン・スペイシー |
脚本 | ルイス・コリック ケヴィン・スペイシー |
音楽プロデュース | フィル・ラモーン |
音楽監督 | ジョン・ウィルソン |
出演 | ケヴィン・スペイシー ケイト・ボスワース ジョン・グッドマン ボブ・ホスキンス ブレンダ・ブレッシン |
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