サイドウェイ

ダメ男と楽天家、2人が旅先で得たものは――
ピークを過ぎかけた大人たちの恋や迷いを描く
淡々としたおだやかなヒューマン・ドラマ

  • 2005/02/25
  • イベント
  • シネマ
サイドウェイ© 2004 TWENTIETH CENTURY FOX

離婚のショックから2年間立ち直れないマイルスと、1週間後に挙式を控えたジャック。状況も性格も対照的な親友同士が、カリフォルニアのワイナリーを巡る旅に出る――。中年男2人のロードムービーという地味な設定、有名俳優なし、派手な仕掛けも特になし、という小品でありながら、本年のアカデミー賞で作品賞をはじめ5部門にノミネートされたこの作品。一体どんな魅力があるのだろうか。

ジャックの結婚を祝し、1週間のカリフォルニアワイン・ツアーへ彼を連れ出したマイルス。美味しいワインと料理で純粋に祝うつもりだったマイルスは、ジャックが独身最後のナンパ旅行のつもりでいることに驚く。そしてステイ先のサンタバーバラで、彼らはマヤとステファニーという2人の女性と親しくなり……。

サイドウェイ

ジャックは売れない俳優でありながらいつも前向き、誰にでも好かれる楽天家で女好きの体育会系。反面マイルスは、人はいいのだが鬱っぽく、ときにはキレたりもする小市民。ワイン通で小説家志望の国語教師、という文系人間。正反対だからこそ仲が良い、というのは実際よくあるお話。彼らが互いに対立したりフォローしたり影響を受け合ったり、少々へなちょこでももちつもたれつ、自分たちなりの思いや幸せを模索していく姿はほほえましい。

観ていて何より心地いいのは、まださほど有名でも名産地でもないサンタバーバラ郡のワイナリーめぐり。軽快なジャズにのせて車を走らせては気負いなくワインを味わう様子は、なんだかうらやましくなる。本作では1,000ドル以上はするという1961年物のシュヴァル・ブランいったヴィンテージワインをはじめ、マニアックにワインの話が語られるところがポイント。随所で語られるワインのうんちくはわかりやすく、ちょっとためになったりする。またワイン通の間で古くから繰り広げられてきたという品種論争、デリケートなピノと耐久性のあるカベルネのことが、登場人物の設定や台詞に生かされているからユニーク。サンタバーバラ郡のロケ地マップや、ワインに使用される代表的なブドウ品種の解説が映画のシーンや台詞とともに綴られていたプレス資料は楽しく熟読。思わずカリフォルニアのワイナリーめぐりに行きたくなってしまった。

サイドウェイ

個人的になぜかはっきりと覚えているのは、マイルス役のポール・ジアマッティが小太りの身体をゆらしてブドウ畑に向かって全力疾走するシーン。青春やらヒロイックやらではとてもなく、中年男の捨て鉢な衝動は少々見苦しく、もの哀しくもありユーモラスでもあり。2002年の『アバウト・シュミット』が高く評価されたアレクサンダー・ペイン監督が、大人たちの人間模様を味わい深く描き出している。
 淡々と映しだされていく、人生のピークを過ぎかけた大人たちの恋や迷い。すごく感動! 面白い! という強い印象はないものの、あたたかみのある穏やかな作品だ。この記事がアップされてすぐに発表となるアカデミー賞では受賞は難しいかもしれないが、「こういう作品も悪くないから観てみて」という気持ちを伝えたくなるのは、なんとなくわかる。そんな感じの作品である。

作品データ

サイドウェイ
公開 2005年3月5日公開
ヴァージンTOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー
制作年/制作国 2004年 アメリカ
上映時間 2:10
配給 20世紀フォックス映画
監督 アレクサンダー・ペイン
原作 セバスチャン・ジャプリゾ
脚本 アレクサンダー・ペイン
ジム・テイラー
出演 ポール・ジアマッティ
トーマス・ヘイデン・チャーチ
ヴァージニア・マドセン
サンドラ・オー
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
XInstagram

記載内容は取材もしくは更新時の情報によるものです。商品の価格や取扱い・営業時間の変更等がございます。