ミリオンダラー・ベイビー 試写会日記 毎週、熱田美希から映画ファンの皆さんへ熱いメッセージ!傑作でも愚作でも、映画ってやっぱり素敵!!
ミリオンダラー・ベイビー

第77回アカデミー賞にて主要4部門を獲得
C・イーストウッドがどこまでも男の視点で描いた
ハードボイルドなヒューマン・ドラマ



 クリント・イーストウッドによる監督・製作・音楽・主演、第77回アカデミー賞の主要4部門を獲得したヒューマン・ドラマ。頑固な初老のトレーナーと、夢を追い続ける女性ボクサーとの心の交流を描く。原作はNYタイムズやLAタイムズのブック・オブ・ジ・イヤーに選出されたF・X・トゥールによる短編集『Rope Burns』(邦題:『ミリオンダラー・ベイビー』)におさめられた作品。主人公と同じく、試合中のボクサーのケガに応急処置を施すカットマンをしていたトゥールによるリアルなエピソードをベースに、イーストウッドがハードボイルドな男のドラマへと映像化した作品である。


 ロスで小さなボクシング・ジムを経営するフランキーは、ボクサーを育てる腕は一流だが、マネージメントがうまくできない。若い頃の事件が尾を引き、保守的になりすぎているのだ。またも育て上げたボクサーがほかへ引き抜かれた頃、フランキーのもとへ女性ボクサーを目指すマギーが訪れる。彼はすげなく断るが、マギーは半年分の代金を前納してジムに入り込み、自己流の無茶なトレーニングを続行。31歳でろくなトレーニング経験もない女にボクシングはムリだ、と諦めるよう説得するが、マギーの強固な意志は変わらない。根負けしたフランキーは、彼女のトレーナーになることを約束する。

ミリオンダラー・ベイビー
 
 娘に縁を切られた初老の男、利己的な家族に理解されない娘。ボクシングを通して人間的に支えあうようになる2人に、思いがけない過酷な運命が待ち受ける。展開がガクッと切り替わるので、観ていても驚いたほどだ。
ミリオンダラー・ベイビー
 2004年の第76回アカデミー賞で2部門を受賞したイーストウッド監督作『ミスティック・リバー』のような、鋭く緻密に積み上げられたサスペンスとは趣が異なる本作。前半には淡々としている部分もあり、全編を通して惹きつける押し出しの強い作品ではない。あくまでも初老の男の哀愁やダンディズムに貫かれた、叙情的な物語といえるだろう。


 「23年間教会に通い続けるなんて、自分を許せない人間のすることだ」。フランキーを知る牧師のこの台詞のように、フランキーがマギーにつけたゲール語の名前“モ・クシュラ”の意味のように、劇中にはインパクトのある言葉がちりばめられている。一瞬で身体の奥深くを響かせるその言葉に触れるだけでも、大きく揺り動かされるものがあった。


 第77回アカデミー賞にて、イーストウッドが2度目の監督賞、すべての試合シーンをスタントなしでこなしたヒラリー・スワンクが2度目の主演女優賞、モーガン・フリーマンが初の助演男優賞、そして作品賞を受賞した本作。“死”の社会的な意義より何より、死が確実に近づいてくる残りの生をどう生きるか。最後はそこに焦点がしぼられ、視点がブレないところがよかった。


  カントリー風に爪弾くギターにやさしいピアノの旋律、陽気なリズム&ブルース……音楽はすべてイーストウッドが自身で作曲。どの曲も素晴らしく、彼の底知れぬ才能に改めて驚かされたこの映画。エンドロールがハリウッド作品にしてはかなり短めだったことも印象的だった。それだけ限られたメンバーでこぢんまりと作った、ということだろう。男が男として人生を収めるために必要な道のり。生きているうちに赦しを得て、自分を受け入れ、いかに死んでいくか。そして最後の恋。酷い苦渋を長く背負ってきた者には、かすかな幸福がたとえようもなく透明に輝く。不条理も道理も時間に染みて、ゆっくりと風化されていく。そんな“救い”について、しみじみと感じさせる作品である。
『ミリオンダラー・ベイビー』 2004年アメリカ映画
データ
2005年4月更新

ミリオンダラー・ベイビー

2005年5月28日公開
丸の内ピカデリー1ほか
全国松竹・東急系にてロードショー

■2004年 アメリカ映画
■上映時間2:13
■ムービーアイ+松竹共同配給
■監督/クリント・イーストウッド
■脚本/ポール・ハギス
■原作/F・X・トゥール
■出演/クリント・イーストウッド
ヒラリー・スワンク
モーガン・フリーマン



プロフィール
 
あつた美希 あつた美希
あつた美希
フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。