クレールの刺繍 試写会日記 毎週、熱田美希から映画ファンの皆さんへ熱いメッセージ!傑作でも愚作でも、映画ってやっぱり素敵!!
クレールの刺繍

生と死の業を負った人々の心の交流と再生
風景や刺繍、ファッションの色彩や映像が
言葉にならない温かな空気となって心を満たす



 “レンブラントやフェルメールといったオランダ絵画を彷彿とさせる”という、しっとりとした質感と厚みのある美しい色彩。言葉ではなく、間合いや情景で心を伝えていくとても静かな物語。2004年のカンヌ国際映画祭批評家週間にて、グランプリを受賞したフランス映画である。キャストは本作が映画初主演となる18歳のローラ・ネマルク(撮影時は16歳)、共演に『マルセイユの恋』でセザール賞を受賞したアリアンヌ・アスカリッドを迎え、新進気鋭の女流監督エレオノール・フォーシェが織り上げた繊細な世界である。

クレールの刺繍
 刺繍が大好きな17歳のクレールは妊娠5ヶ月。周囲や家族に妊娠を隠していたクレールは、出産費用は無料、産後すぐに養子に出すというフランスの制度“匿名出産”をすることに決めていたが、気持ちは不安なままだ。お腹が大きくなり、スーパーのレジ係の仕事が続けられなくなったクレールは、刺繍職人であるメリキアン夫人もとで刺繍の仕事をするようになる。


 実の親子でも簡単には通じ合えない関係があれば、他人でも強く結びつき、深く理解し合える関係もある。望まない妊娠をした少女、息子を亡くした母親、友を亡くした青年……生と死にまつわる業を負った人々の心の交流と再生が静かに描かれていく。メリキアン夫人とクレールの間には、刺繍を通じてその技のみならず、家族愛や同胞愛などが温かく通い合う。それは心や技術が世代から世代へと継承されていく光景のようでもあり、美しい。
クレールの刺繍
   「触感という感覚を大切にしたかった」というフォーシェ監督。本作は彼女が母から受け継いだ30年以上も前のニットを繕っている時に、自分の中に祖母や両親の存在をはっきりと感じたことが制作のきっかけになったとのこと。25歳で母親となったフォーシェ監督は、出産で仕事を休んでいた期間に今回の脚本を書き始めたのだそう。資料に年齢はなかったが、監督は31歳ぐらいだろうか。主人公の出産への不安や妊娠に対するとまどいや不安、そしてそれらを乗り越えていく様がわざとらしくなく、とても真摯に表現されている。それはやはり、自らが実際に過ごしたそのときを正直に描き出しているためだろう。


 主人公を等身大でみずみずしく演じたネマルクは、ブリジット・バルドーやカトリーヌ・ドヌーブを育てたことで知られる故ロジェ・バディム監督に見出された新星とのこと。メリキアン夫人を演じたベテランのアスカリッドの安定した演技と相まって、空気で語る映像を静かに紡ぎ上げている。説明のない、シンプルでも退屈にならない味な雰囲気は、フォーシェ監督と俳優たち全員のバランスの取れたアンサンブルによるものだろう。


 本作に登場する刺繍作品は、どれも綺麗なものばかり。それも古典的に美しい作品ばかりではなく、ウサギの毛や金属などの異素材をあわせたモダンで洗練された作品も登場するから面白い。それもそのはず、本作にはオートクチュールメゾンの刺繍を手がける「ルサージュ」の協力により、デザインも技術も一流の作品が提供されているのだそう。そして黄金色の草原や緑深い丘など、自然の背景に映えるブーツやワンピースなどのファッションもうまくコーディネイトされ、かわいらしい。


 言葉少なに、視覚や情感に訴えかけてくる本作。真夏の熱波とテンションが落ち着いてくる晩夏から初秋のころ、おだやかな気候とともにやさしい気分を届けてくれる小品である。
『クレールの刺繍』 2004年フランス映画
データ
2005年7月更新

クレールの刺繍

2005年8月下旬より公開予定
Bunkamura ル・シネマほかにて
ロードショー

■2005年 日本映画
■上映時間1:28
■シネカノン配給
■監督・脚本/エレオノール・フォーシェ
■出演/ローラ・ネマルク
アリアンヌ・アスカリッド



プロフィール
 
あつた美希 あつた美希
あつた美希
フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。