奇才テリー・ギリアムの新作が遂に完成!
各地の民話を集めるグリム兄弟は実は……?
有名な童話をリミックスした活劇ファンタジー
1985年の『未来世紀ブラジル』、'95年の『12モンキーズ』などで知られる天才肌のテリー・ギリアム監督による7年ぶりの新作。主演にマット・デイモンとヒース・レジャー、共演にジョナサン・プライスやモニカ・ベルッチという豪華キャストが集結。猟奇的かつファンタジック、ロマンティックも少々、という“グリム”テイストたっぷりのアドベンチャー・エンタテインメントである。
19世紀、フランス占領下のドイツ。民話や伝承を記録しながら各地を放浪するグリム兄弟は、魔物退治も請け負うちょっとした有名人。が、実はヒーローでもなんでもない彼らはある日、冷酷なフランスの将軍に足元を見られ、ある村で起きた難事件の解明を命じられる。それは10人もの少女が森で行方不明、という謎の失踪事件だった。
実在したグリム兄弟の本物のエピソードか、グリム童話のひとつをふくらませたものかと思いきや、予想とはまったく違うシロモノ。グリム兄弟をモチーフにした、オリジナルの冒険モノである。なかには、『赤ずきん』『ヘンゼルとグレーテル』『シンデレラ』などの超メジャーなグリム童話のエッセンスがちりばめられ、“想像”“連想”といったファンタジーの醍醐味そのものが、さまざまなディテールから何気なく伝わってくるところが面白い。ラストには、グリム兄弟はこうして民話を体感し、童話にまとめ上げた――というニュアンスがあったりする。フィクションだとわかっていながらも、もしかしたらこんなこともあったかも! と思わせる演出がなかなかニクイ。
即物的な現実主義者の兄ウィル役はデイモン、学者肌でロマンチストな弟ジェイク役はレジャー。もともとは兄をレジャー、弟をデイモンにオファーしていたそうだが、本人たちがそれぞれに逆を希望してその通りに決まったとのこと。2人ともこれまでのイメージとは反対のようなキャスティングだが、これがいい感じにハマっている。ベルッチが演じた類稀なる美貌をもつ伝説の女王は、キレイすぎて作り物めいた雰囲気がいかにも。また、グリム兄弟とともに難事件に関わる猟師の娘アンジェリカは、新鋭レナ・ヘディが好演。へディには健康的でタフな色気と野性味ある純粋さがあり、新鮮な魅力が感じられた。また、登場人物のキャラクターと行動にブレがないところも心地よい。性格の違う兄弟は反発やコンプレックスを互いに抱きながらも思い合い、兄は稼ぎと弟の心配を、弟は民話と惚れた女性のことを胸に、女王はどこまでもエゴイスティックで、猟師の娘は真実を知るために突っ走る。些細な台詞や行動にも、人物像がよく表されていた。
ギリアム監督といえば、大々的に製作を開始したドン・キホーテの作品『The Man Who Killed Don Quixote』の撮影が頓挫し、そのドキュメンタリーが2002年に『ロスト・イン・ラマンチャ』として発表されたことを思い出す人もいるだろう。このときは主役の病気、嵐によるセットの崩壊、資金不足などの問題が次々と噴出し、撮影はわずか数日で中止に。今回はめでたく完成し、世界での上映が決まったが、そこに至るまでにはスタジオ側との対立などがあったとか。徹底してこだわるギリアム監督にとって、それは毎回避けられないことのようだ。その甲斐あってか、作りこんだセットや1年半かけてVFXを入れ込んだという映像は見ごたえあり。チェコ共和国のプラハに25軒の家を作って再現した19世紀の村、700本以上の木を植え込んだ妖しげな森、その村や森で起こるさまざまな出来事。民話のロマンとアドベンチャーの躍動感を視覚や聴覚にしっかりと訴える仕上がりとなっている。ギリアム監督の映画の大ファン、というレジャーは語る。「彼は素晴らしい。そしてエキセントリックな狂人さ」。
大いなる感動を、というよりも、ユニークな切り口や視点、映像の面白さを味わうこの作品。まずはギリアム監督作品が7年ぶりに完成し、公開されたことを喜びたい。現在、監督は新作『タイドランド』を撮影中とのこと。次回はどんな玉手箱をだしてくるか、やっぱり楽しみなのである。
公開 | 2005年 今秋公開予定 丸の内ルーブルほか、全国松竹・東急系にてロードショー |
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制作年/制作国 | 2005年 アメリカ |
上映時間 | 1:57 |
配給 | 東芝エンタテインメント |
監督 | テリー・ギリアム |
脚本 | アーレン・クルーガー |
出演 | マット・デイモン ヒース・レジャー レナ・ヘディ ジョナサン・プライス モニカ・ベルッチ |
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