謎の手紙を辿り、男は20年前の恋人を訪ねる旅へ
監督ジム・ジャームッシュ×主演ビル・マーレイ
味わい深いインディーズ系ロードムービー
アメリカのインディーズ系映画作家ジム・ジャームッシュが監督・脚本を手がけた6年ぶりの本格長編。主演は『ロスト・イン・トランスレーション』のビル・マーレイ、共演にジェシカ・ラングやシャロン・ストーン、クロエ・セヴィニーなど有名女優が多数出演。2005年カンヌ国際映画祭にて、最高賞に次ぐグランプリを受賞した、ユーモアと哀愁を感じさせるロードムービーである。
コンピューター産業で成功し、金も家もベンツもあるが人生の目標がなく、結婚や子供など自分の将来をまともに考えられない中年男ドン。一緒に暮らしてきたシェリーが愛想をつかして出て行くその時、ドンは差出人不明のピンクの手紙を受け取る。そこには、「あなたには19になる息子がいます」と記されていた。
まるで自分がアメリカ横断の旅をしているかのような気分にしてくれる、期待を裏切らないジャームッシュ流映画。旅する過程やその雰囲気、人々との出会いや再会による心の機微をリアルに映し出し、観る側の思い出や感覚を自然に引き出すところが面白い。
来るもの拒まず去るもの追わず、といった風情のドンは世話焼きな隣人ウィンストンにお尻を叩かれ、手紙に記された息子とその母親を探す旅に出る。ウィンストンとドンのやりとりでは男の友情がしっかり描かれ、その噛み合い具合が笑える。「手紙は?」「レンジで焼いたよ」「いいから出せよ」ドンはあっさりと手紙を差し出す。わかり合っている者同士の会話はどこか突飛で信頼があって、こんなほのぼのとした空気が流れているものだ。
すっかりインディーズ系映画の重鎮となりつつあるビル・マーレイは、本作でも“中年の危機”にある男の哀愁やおかしみをさりげなく表現。また大物から若手まで贅沢に起用された人気女優たちは、収納アドバイザー(ストーン)やアニマル・コミュニケーター(ラング)など個性的な大人の女性を好演。20年前の元カノたちとドンとの間に流れる微妙なニュアンスが、物語の流れを彩っている。
結論よりも過程でみせる本作。監督曰く、本作は“ロマンチック・コメディでも陰気な悲劇でもない、中間的な作品” とのこと。いわゆるハリウッド作と同列に捉えると違和感を感じるかもしれないが、登場人物たちの生き方や暮らしぶり、どのように年を重ねてきたかなどの要素をしっかりと作りこみ、あえて遊びの部分を残してあるため、さまざまな想像を楽しめるところが特徴だ。
市場を意識しないインディーズ系作品でありながら、実は2005年夏の全米公開時に商業的成功を収めたという本作。何かありそうでない、なさそうである。最後に主人公の言葉で伝えられるメッセージとは。ジャームッシュの長編で、旅そのものの醍醐味を追体験してみてはいかがだろう。
公開 | 2006年GW公開予定 シネマライズ、シャンテ シネほか全国ロードショー |
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制作年/制作国 | 2005年 イギリス |
上映時間 | 1:46 |
配給 | キネティック・東京テアトル |
監督・脚本 | ジム・ジャームッシュ |
出演 | ビル・マーレイ ジェフリー・ライト ジェシカ・ラング シャロン・ストーン フランセス・コンロイ ティルダ・スウィントン ジュリー・テルピー クロエ・セヴィニー |
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