花よりもなほ

是枝裕和監督×岡田准一×宮沢りえ
3つの仇討ちとほのかな恋慕の行方は?
人気の俳優や芸人たちによるエンタメ時代劇

  • 2006/05/26
  • イベント
  • シネマ
花よりもなほ© 2005 「花よりもなほ」 フィルムパートナーズ

2004年のカンヌ国際映画祭にて、柳楽優弥(当時14才)が史上最年少で最優秀男優賞を受賞した『誰も知らない』の是枝裕和監督が、オリジナルの脚本で時代劇に挑戦。出演はV6の岡田准一、宮沢りえをはじめ、古田新太や寺島進といった個性的な演技派、上島竜兵や木村祐一ら芸人などバラエティに富んだ顔ぶれ。仇討ちをテーマに、江戸の長屋で繰り広げられるハートウォーミングな人情物語である。

元禄十五年、仇討ちに藩が賞金を出していた時代。若侍・青木宗左衛門は、父の仇討ちのために信州松本から江戸へ上京。しかし仇(かたき)を見つけられないまま、長屋の住民たちと笑い合ったり美しい未亡人のおさえに憧れたりと穏やかに暮らすうちに、宗左は仇討ちをまっとうすべきかどうか悩み始める。

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笑いあり涙あり、ほっこりと心温まるお話。田舎から上京してきた世間知らずの青年の心境、復讐の連鎖へのジレンマ、素朴な交流から生まれるやさしい空気。江戸時代という設定でありながら、現代にも通じる普遍的なテーマがしっかりと描かれている作品だ。徐々に明されてゆく事情など、人々の背景が繊細に織り込まれているところも共感できる。

憎しみと悲しみの連鎖につながりかねない仇討ち。この作品には、3つの仇討ちのエピソードが描かれている。父の仇討ちに迷う宗左、仇討ちを心に秘めたある人、そして日本一有名な仇討ちを遂げた『忠臣蔵』の赤穂浪士たち。それぞれの道が正しいか間違っているかではなく、仇討ちに関わる人々が周囲に助けられ、各人の道を見出すまでの過程や心理描写が胸に沁みる。本作について「青年の成長物語ではなく、弱いものが弱いまま肯定され、その意味が変わっていく“変化”の映画」と語る監督。強い主張でなくとも確かな意思が伝わってくるのは、是枝監督の明確な視点に基づいているためだろう。

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長屋の住人役は香川照之、田畑智子、加瀬 亮、千原靖史などが好演。彼らの日常にはコミカルなシーンが満載で、真面目な場面にもボケやツッコミがほどよくあって退屈しない。また、個人的に一番可笑しかったのは長屋の仇討ち芝居のシーン。勘違いした本物の武士に刃を向けられた宗左は、脱兎のごとく逃げ出してしまう。その逃げっぷりたるや見事なもので、時代劇には何十人斬り、と敵を斬っていくシーンがあるが、何十人抜き、という勢いで一目散に駆け抜けていく様を長〜く映すところがなんとも皮肉で、相当面白かった。

3つの仇討ちとほのかな恋慕の行方は? 故・黒澤明監督の長女にして業界の第一人者・黒澤和子の手がけた衣裳をはじめ、作りこまれた美術や小道具で江戸情緒たっぷりの本作。カラッと笑ってホロリとさせる、是枝流エンタメ時代劇をとくとご覧あれ!

作品データ

花よりもなほ
公開 2006年6月3日公開
丸の内ピカデリー2ほか全国にてロードショー
制作年/制作国 2005年 日本
上映時間 2:07
配給 松竹
原案・脚本・編集・監督 是枝裕和
衣裳 黒澤和子
出演 岡田准一
宮沢りえ
古田新太
香川照之
田畑智子
上島竜兵
木村祐一
寺島 進
浅野忠信
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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