ブラック・ダリア

エルロイの“暗黒のL.A.4部作”第1作が
ブライアン・デ・パルマ監督によって遂に映画化
酷くも美しいフィルム・ノワールの世界に溺れる

  • 2006/09/08
  • イベント
  • シネマ
ブラック・ダリア

1947年、戦後間もないL.A.のダウンタウン。腰で切断された若い女性“ブラック・ダリア”の惨殺死体が発見された――。実際に起こった迷宮入りの猟奇殺人事件を題材に創作されたジェイムズ・エルロイの小説を映画化。犯人は誰なのか? その目的は? 愛や友情や欲望が絡み合い、関係者や捜査中の刑事たちは事件の深みに囚われていく。巨匠ブライアン・デ・パルマがスリリングに魅せるスタイリッシュなサスペンスである。

被害者の名前はエリザベス・ショート。娼婦まがいの生活をしていた女優志望の22歳。捜査は元ヘビー級ボクサーの中堅刑事リーと、元ライトヘビー級ボクサーの新人刑事バッキーが担当。名コンビとなった2人は、リーと同居する美しいケイとともに微妙なバランスの信頼と友情で結ばれていく。そんな中、事件の捜査上でバッキーは被害者に似た風貌をもつ大富豪の娘マデリンと出会う。

ブラック・ダリア”事件に執着するリーと、それに付き合って凶悪犯を野放しにしたことを激しく後悔するバッキー。同居するリーとケイの過去、2人を大切に思うバッキーの惑い、ケイの身体に刻まれたイニシャルの意味、そして……。さまざまにちりばめられた複線はラストで状況的にも心情的にもきっちり帰結。すっきりさっぱりしっとりと、観客の期待に応える仕上がりとなっている。

ブラック・ダリア

エルロイは97年に映画化され、アカデミー賞2部門を受賞した『L.A.コンフィデンシャル』の原作者であり、本作はこの作品に並ぶ“暗黒のL.A.4部作”の第1作。エルロイは10歳の時、1958年に実母が惨殺死体で発見され、今も迷宮入りのまま、という“ブラック・ダリア”事件に通じる生い立ちをもち、ノワール小説の人気作家として知られている。本作の映画化はここ10年の紆余曲折を経て、ようやく実現に至ったとのこと。アメリカで万人が知る事件をテーマに因縁めいた背景から創出された物語は、デ・パルマ監督の広い懐と確かな手腕によって、残酷でありつつも耽美に官能的にフィルムへと色濃く焼き付けられた。

バッキー役はジョシュ・ハートネット。これまでは可もなく不可もない印象の俳優だったが、本作では沈着で一本気な新人刑事バッキーを好演し、とても魅力に溢れている。どこか影のあるリー役はアーロン・エッカートがソツなく演じ、ケイ役は今ブレイク中の若手女優スカーレット・ヨハンソンが、モンローを思わせる危ういセクシーさでハマっている。謎の女マデリン役はオスカーを2度受賞したヒラリー・スワンク。これまでとは真逆の女っぽい役柄で新境地を披露している。

ある真相はすぐにわかるが、そこで見くびることなかれ。全容が明かされた時のバッキーの決断に、物語の重さと説得力がある。全体が美しく整っていることで、救いが描かれているようにも感じさせる本作。事実と創作が交錯するフィルム・ノワールで、濃厚な非日常を味わってみてはいかがだろう。

作品データ

ブラック・ダリア
公開 2006年10月14日公開予定
日比谷スカラ座ほか全国順次ロードショー
制作年/制作国 2006年 アメリカ
上映時間 1:54
配給 ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
監督 ブライアン・デ・パルマ
脚本 ジョシュ・フリードマン
原作 ジェイムズ・エルロイ
出演 ジョシュ・ハートネット
スカーレット・ヨハンソン
アーロン・エッカート
ヒラリー・スワンク
ミア・カーシュナー
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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