視力を失った女性と殺人容疑者の奇妙な出会いから
ほのかな希望がやさしく広がるラストまで
俊英作家・乙一の世界を天願大介監督が映像化
17歳でデビュー以来、“暗黒小説家”とも“切なさの達人”とも呼ばれる俊英の人気作家・乙一の同名小説を、日中の人気俳優、田中麗奈、チェン・ボーリンの共演で映画化。殺人事件を巡るミステリーと孤独な男女の心の交流を、天願大介監督が繊細に描く。ミステリー、ヒューマン、ラブ・ストーリーとさまざまな要素が相乗効果で響き合う、魅力的なドラマである。
事故により視力を失ったミチルは父を亡くし、住み慣れた家で一人暮らしを始める。家からすぐそばの駅で殺人事件が起こった朝、容疑者の青年アキヒロがミチルの家に侵入。ミチルの目が見えないことがわかると、彼は気配を消してそのまま家に居つく。ミチルはその存在を少しずつ感じ始め……。
ミチルとアキヒロはどうやって互いを認識するのか、盲目となり父を亡くしたミチルの心の行方、そして殺人事件の真相とは? ひとつひとつ湧き上がる「どうなの?」という問いに、きっちり応えてくれる律儀さがいい。豊かに盛り込まれたさまざまなドラマの要素はどれもおざなりにされず、丁寧に展開。人物それぞれの心理描写や動機がよく描かれ、ありえないシチュエイションでも違和感を忘れさせ、観る者をどんどん引き込んでいく。
社会と接することを諦めて引きこもりがちなミチルと前向きな自立を促す親友カズエとの対立、健常者には理解されにくいミチルの日常に潜む危険や苦悩、中国育ちで日本暮らし、勤務先で同僚となじめずに孤立するアキヒロの心の闇。故・今村昌平監督の息子であり、その監督作『うなぎ』などの脚本でも知られる天願大介監督は、一部設定を変えつつも人気小説の映像化に成功している。
ミチル役は本作のために訓練を重ねて撮影に挑んだという田中麗奈。快活なイメージの中国人俳優チェン・ボーリンは寡黙なアキヒロ役に挑戦。ともにピュアな雰囲気で好演している。ミチルの父に岸部一徳、アキヒロの上司に佐野史郎、他者を平気で踏みにじる典型的な悪役を佐藤浩市が演じるなど、実力派たちのさりげない出演も見どころだ。
殺された“私”が語り手となるデビュー作『夏と花火と私の死体』をはじめ、突拍子もない設定や思いがけない視点で描かれる乙一ワールド。2004年に『手を握る泥棒の物語』が犬童一心監督の映像化でWEB配信、'05年に短編集『ZOO』が映画化し、今回長編が映画化。乙一氏はかなりの映画ファンとしても知られ、映画製作をスタートさせているという噂も。おそらく映像作家として、監督兼脚本兼製作総指揮、という小品ながら良質な作品を創作できるのでは。今年28歳となる乙一氏が今後どのように化けていくか。どんな作品をどのように提供してくれるのか。さほど待たされることはないに違いない。
公開 | 2006年11月下旬公開予定 シネスイッチ銀座、シネ・リーブル池袋ほか全国公ロードショー |
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制作年/制作国 | 2006年 日本 |
上映時間 | 2:09 |
配給 | ファントム・フィルム |
監督・脚本 | 天願大介 |
原作 | 乙一 |
出演 | 田中麗奈 チェン・ボーリン 佐藤浩市 井川遥 宮地真緒 岸部一徳 佐野史郎 |
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