父親たちの星条旗

硫黄島の戦いに関わった日米双方の兵士と家族へ
イーストウッド監督が捧げる2つの映画の第1弾
1枚の写真でかりそめの英雄となった青年兵士の物語

  • 2006/10/27
  • イベント
  • シネマ
父親たちの星条旗© 2006 Warner Bros. Entertainment Inc. and DreamWorks LLC

太平洋戦争末期の1945年、アメリカ国民が熱狂した1枚の報道写真“硫黄島での国旗掲揚”。写真に写された兵士のひとり“ドク”の息子ジェイムズ・ブラッドリーとピューリツァー賞作家ロン・パワーズによる同名の原作を、監督クリント・イーストウッド、脚本ポール・ハギス、製作スティーブン・スピルバーグにて映画化。誰もが知っている写真に秘められた誰も知らない物語とは?厳しい世情と戦況を背景に英雄に祭り上げられた3人の青年たちのエピソードから、当時の事実を静かに語る作品である。

戦後、海軍の衛生兵だったジョン・“ドク”・ブラッドリーはウィスコンシン州で葬儀社を経営。長い年月を妻子と共に平穏に暮らし、硫黄島の戦いについてマスコミにも家族にも何も語らず、年老いて死を迎えた。そしてジョンの死後、彼の息子は父の人生を知りたいと思い、その足跡をたどり始める。

父親たちの星条旗

写真に写った6人の兵士のうち3名は戦死、帰還できたのは衛生兵のドク、アメリカン・インディアンの血筋であるアイラ、伝令係のレイニーのみ。3人は戦時国債キャンペーンでアメリカ全土を巡り、戦費の調達に従事。硫黄島では仲間たちがまだ戦っている最中、たまたま旗を立てただけのことで英雄扱いされる状況下、レイニーは成功を夢見て、アイラはストレスから酒に溺れ、ドクは寡黙に任務をやりすごす道を選ぶ――。

父親たちの星条旗

ドクを演じたのはライアン・フィリップ。デビュー時は平凡なハンサム俳優だったが、ここ数年で作品に恵まれていい味がでてきた。アイラ役にアダム・ビーチ、レイニー役にジェシー・ブラッドフォード、軍曹マイク役にバリー・ペッパーなど、有望な若手俳優たちの共演に注目だ。

本作については、イーストウッド監督のコメントがすべてを物語っている。「私が観て育った戦争映画のほとんどは、悪役と善玉がはっきり分かれていた。だが、人生はそんなものではないし、戦争もそんなものではない」。アメリカの視点で書かれた原作では当然、日本が敵(かたき)として描かれているが、さまざまなリサーチを重ね、日米双方の元軍人から話を聞いたイーストウッドは、硫黄島の戦いを日本の視点で捉えた作品も製作(2006年12月9日、日本公開『硫黄島からの手紙』)。イーストウッドは語る。「この2本の映画は勝ち負けを描いたものではない。あの戦争が人間に与えた影響と、若くして命を落とした人々を描いている」。

父親たちの星条旗

元AP通信のカメラマン故ジョー・ローゼンタールが撮影し、ピューリツァー賞を獲得。数々の雑誌や新聞に掲載され、バージニア州アーリントンの海兵隊記念碑となった報道写真の真実。関わった人間が多くを語ることのないデリケートな心情を受け取り、当時の感覚を誠実に表すことができるのは、善悪の彼岸で事象を見つめるイーストウッド監督だからこそだろう。

作品データ

父親たちの星条旗
公開 2006年10月28日公開
丸の内ピカデリー1ほか全国松竹・東急系にてロードショー
制作年/制作国 2006年 アメリカ
上映時間 2:01
配給 ギャガ・コミュニケーションズ
監督・製作・音楽 クリント・イーストウッド
製作 スティーブン・スピルバーグほか
脚本 ポール・ハギス
ウィリアム・ブロイレスJR
原作 ジェームズ・ブラッドリー
ロン・パワーズ
出演 ライアン・フィリップ
ジェシー・ブラッドフォード
アダム・ビーチ
バリー・ペッパー
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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