武士の一分

藤沢周平原作・山田洋次監督による第三弾
失明した武士が剣の手だれに復讐を誓う
日本人本来の意気と幕末の習俗を映す人間ドラマ

  • 2006/11/03
  • イベント
  • シネマ
武士の一分©2006「武士の一分」製作委員会

2002年の『たそがれ清兵衛』、2004年の『隠し剣 鬼の爪』に次ぐ、藤沢周平の時代小説を山田洋次監督が映画化した第三弾。出演は木村拓哉、宝塚出身の檀れい、演技派の笹野高史、歌舞伎役者の坂東三津五郎。「優しい愛妻物語であり、白刃閃く復讐譚」という監督の言葉どおり、全身で夫に尽くす健気な妻と勝算のない復讐に命懸けで挑む夫、2人の行く末を描く人情味あふれる人間ドラマである。

200年以上にわたる安泰の江戸時代、幕末の頃。海坂藩(現在の山形県)の下級武士・三村新之丞は、愛妻の加世と父の代から仕える徳平と共に、とりたてて裕福でなくともつましく幸せに暮らしていた。が、三村はある日、藩主の毒見役としてのお役目で失明。絶望する三村を必死で支える加世は、藩の上士である番頭・島田藤弥に相談をもちかける。

武士の一分

これまでの二作の流れからやや身構えていたものの、観終わった後はホッとあたたかい気持ちに。“山田時代劇の三部作の最後を飾る”という本作には、監督の伝えたい感覚が色濃く反映されているに違いない。当時の欧米人の見聞録には“日本人は穏やかで謙虚で礼儀正しく、その暮らしぶりは貧しくとも清潔で…”と記されているとのこと。監督は語る。「この映画を通して、江戸時代の地方の藩で静かに生きていた先祖たちの姿を敬意を込めて描く、ということをしたいと思います」。

妻は着物のたもとを手際よくたすきで留めて、夫の袴に洋ごて(アイロン)を当てる。食事の最後は碗に湯を注ぎ、飲み干すことで食べ物を余すことなくいただいて器を清め、碗と箸とを食膳の箱にしまう。和装の所作や食事の仕方など、約150年前である江戸時代末期の日本の民俗文化が丁寧に再現されているところが興味深い。毒見役については少ない資料から想像して作り上げたそうだが、調理室の傍の薄暗い部屋、数人が肩を並べて退屈そうに座って待つなど、どこか間の抜けた空しい雰囲気には説得力がある。

三村役は山田監督が称賛する木村拓哉。幼少からの剣道の腕で、道場の師範との稽古や果し合いのシーンを熱演。盲目の武士という難役は、徳平を演じる笹野高史、島田を演じる歌舞伎役者・坂東三津五郎ら脇を固めるベテラン勢によってしっかりと支えられている。期待通りの好演は、本作が映画デビューとなる元宝塚歌劇団主演娘役の檀れい。透明感のある美貌と豊かな表現力で健気な妻・加世を演じ切っている。

武士の一分

酷な運命によって試される、武士の誇りと夫婦の契り。物語に加え、当時の習俗や環境を基に忠実に作り込まれた世界観にもぜひ注目を。江戸の古きよきルーツに触れ、日本古来の凛とした佇まいにちょっと胸を張りたくなる。それがなかなか誇らしく、気持ちいいのである。

作品データ

武士の一分
公開 2006年12月1日公開
丸の内ピカデリー2ほか全国一斉ロードショー
制作年/制作国 2006年 日本
上映時間 2:01
配給 松竹
監督 山田洋次
脚本 山田洋次
平松恵美子
山本一郎
原作 藤沢周平
衣裳 黒澤和子
出演 木村拓哉
檀れい
笹野高史
坂東三津五郎
小林稔侍
緒形拳
桃井かおり
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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