犬神家の一族

横溝正史の名作を市川崑×石坂浩二で再映画化
財閥の愛憎劇の謎を名探偵・金田一耕助が解き明かす
レトロ+モダンの絶妙なセンスで魅せる快作

  • 2006/11/17
  • イベント
  • シネマ
犬神家の一族© 2006 「犬神家の一族」製作委員会

“大の横溝ファン”を自負する名匠・市川崑監督が、横溝正史の傑作推理小説、名探偵・金田一耕助シリーズの人気作を石坂浩二主演にて再映画化。出演は松嶋菜々子、尾上菊之助、富司純子、松坂慶子、萬田久子など。中心人物から脇役に至るまで豪華な顔合わせで、昭和のクラシックな様式美をモダンに表現。11月20日に91歳のバースデイを迎える市川崑監督が放つ、エンタテインメント快作である。

信州の大財閥の創始者・犬神佐兵衛が永眠。“3人の孫、佐清、佐武、佐智のいずれかとの結婚を条件に、犬神家の全財産を珠世に譲渡する”という遺言が公開されると、犬神家は大混乱に陥る。そもそも、珠世は佐兵衛の恩人の孫娘であり、同居しているだけの赤の他人。佐兵衛の腹違いの娘である松子、竹子、梅子、それぞれの息子である佐清、佐武、佐智たちは財産分与を狙って思惑をめぐらせる。遺言を管理する法律事務所が骨肉の争いを察して相談した、探偵・金田一耕助が現地に着くやいなや、第一の殺人事件が起きる。

犬神家の一族

昔ながらのスタイルへのこだわりと最新の技術を生かすこと、そのバランスのとり方に市川監督の鋭いセンスを感じさせる小気味いい仕上がり。繰り返しドラマ化や映画化されている予定調和の内容だからこそ、その見せ方にこだわったに違いない。誰もが腹に一物、という緊張感を高く保ち、そこはかとない不穏な空気で観る者をワクワクさせてくれる。

犬神家の一族

金田一役は1976年の同名映画でも同役を務め、市川監督が再び指名した石坂浩二。竹子役を松坂慶子、梅子役を萬田久子らベテラン勢が演じ、美女・珠世役の松嶋菜々子がさまざまな洋装や和装で華を添えている。出演者の中で最も印象に残ったのは、佐清を演じた尾上菊之助。映画出演は今回で三度目というものの、女方も二枚目も魅力的に演じる人気の歌舞伎役者だけあって、その存在感は抜きんでて強烈。べらんめえ口調でまくしたてるシーンでは瞬間的にゾッとさせ、切々と語るシーンでは全身で深い情を表す。やりすぎと紙一重の濃厚な演技が、横溝×市川ワールドにぴったりとハマっている。松子役の富司純子は実母であり、親子役で親子共演、というのも話題だ。また大滝秀治、草笛光子、仲代達矢、岸部一徳、三谷幸喜、深田恭子、奥菜恵の出演など抜かりない配役で、シーンのひとつひとつが面白味に満ちている。

犬神家の一族

建物、衣裳、小道具などのすべてが味わい深く、ホラーと背中合わせの独特のユーモアや脱力感、滑稽さも巧く差し入れられている本作。レトロな描写でスクリーン一面に流れる古典的な血のり、尾上菊之助の突き抜けた快演を大画面でたっぷりと味わっていただきたい。

作品データ

犬神家の一族
公開 2006年12月16日公開
全国東宝系にて超拡大ロードショー
制作年/制作国 2006年 日本
上映時間 2:14
配給 東宝
監督 市川崑
原作 横溝正史
脚本 市川崑
日高真也
長田紀生
出演 石坂浩二
松嶋菜々子
尾上菊之助
富司純子
松坂慶子
萬田久子
葛山信吾
池内万作
深田恭子
奥菜恵
岸部一徳
大滝秀治
草笛光子
仲代達矢
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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