あるいは裏切りという名の犬

元警官のマルシャル監督が問う罪と罰――。
事実を基に警察組織のスキャンダルの顛末を描く
フランスの名優によるハードボイルドなミステリー

  • 2006/12/15
  • イベント
  • シネマ
あるいは裏切りという名の犬

本国フランスで大ヒットし、ハリウッドによるリメイクが決定している硬派なミステリー。元警察官のオリヴィエ・マルシャル監督が、実話をベースに犯罪と警察組織の裏側、2人の警官の対立と確執の行く末を描く。出演はともにフランスで最も権威のある映画賞、セザール賞の主演男優賞受賞俳優ダニエル・オートゥイユとジェラール・ドパルデュー。絡み合う人間模様、そして犯罪の色濃い影……。緻密な伏線から思いがけないラストまで、じっくりと引き付けていくハードボイルドなドラマである。

シテ島オルフェーヴル河岸36番地のパリ警視庁。BRI(探索出動班)の正義感の強いレオと、BRB(強盗鎮圧班)の野心家ドニはともに有能で実績も同等の警視。次期長官は2人のどちらか、とささやかれる中、組織的な連続強盗事件の指揮官にレオが任命される。レオはあることから犯人の重要な手がかりを得て、慎重に追い詰めていくが、手柄を自分のものにしたいドニは作戦を無視して、独断で犯人のアジトへと乗り込む。

あるいは裏切りという名の犬

ここから始まり、内容はさらに濃く複雑に展開。いわゆるフィルム・ノワールの宿命的な雰囲気もありつつ、現代的なミステリーの面白味やインパクトをふんだんに取り入れた仕上がりだ。人は誰も、自分のしたことの成果を享受し、代償を支払う。良くも悪くも因縁は必ず巡る。そうしたことが意表をつく幕引きにより、スパッと鋭利に描かれている。

物語は80年代のフランスで騒がれた“ロワゾー事件”“汚職刑事事件”という警察のスキャンダルを基にしているとのこと。本作の共同脚本には、前者の当事者である元警察官ドミニク・ロワゾーが監督のオファーにより参加。事件当時、警官だったマルシャル監督は、尊敬する先輩警官ロワゾー氏が無実の罪で投獄され、殉職した警官が濡れ衣で汚職刑事扱いされたことに大きな衝撃を受けたのだそう。そのため本作では、そうした事態を引き起こした警察周辺の内部事情もよく描かれている。ドラマとしては、親友同士だった2人が同じ女性を愛し、彼女がレオと結婚したことにより信頼関係が崩れた、という過去をはじめ、背景や事件の全容を何層にも深くヘヴィに脚色。事件の真相を求めていく中、さまざまな伏線がどのように決着していくかが見どころだ。哀愁を帯びた誠実なレオ役はオートゥイユが、狡猾であるがゆえの悲哀を負うドニ役はドパルデューが、ともにフランスを代表する俳優として重厚な演技でみせてくれる。ちなみにハリウッドではロバート・デ・ニーロがリメイク権を獲得。レオ役はデ・ニーロ本人、ドニ役はジョージ・クルーニーが指名されたそうだ。

あるいは裏切りという名の犬

北風の季節にフィルム・ノワールはよく似合う。あわただしい街の喧騒からのがれ、トレンチコートの襟を立てつつ映画館に出かけてみるのも……いいかもしれない。

作品データ

あるいは裏切りという名の犬
公開 2006年12月16日公開
銀座テアトルシネマほか全国東宝洋画系にてロードショー
制作年/制作国 2004年 フランス
上映時間 1:50
配給 アスミック・エース
監督 オリヴィエ・マルシャル
脚本 オリヴィエ・マルシャル
フランク・マンキュソ
ジュリアン・ラプノー
共同脚本 ドミニク・ロワゾー
出演 ダニエル・オートゥイユ
ジェラール・ドパルデュー
アンドレ・デュソリエ
ヴァレリア・ゴリノ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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