厨房で逢いましょう

注目の映画作家と一流シェフが美味しいコラボ。
ドイツのベテラン俳優と人気司会者の共演で
人生の味わいが豊かに広がる変化の顛末を描く。

  • 2007/08/10
  • イベント
  • シネマ
厨房で逢いましょう© 2006 GAMBIT IC-FILMAGIG

エロティック・キュイジーヌが楽園への扉を開く。料理の非凡な才能をもちながら人間としては未熟な天才シェフと、人間的なあたたかい魅力をもつ平凡な主婦が料理を通じて心を通わせていくさまを描いたドイツ=スイス映画。監督・脚本はドイツ映画界で注目のミヒャエル・ホーフマン、出演はドイツの舞台や映画で活躍するベテラン俳優ヨーゼフ・オステンドルフ、TVで人気の司会者であり本作が女優デビューとなるシャルロット・ロシュ。華やかさがなく、現実離れした展開も多々あるものの、ロッテルダム国際映画祭やペサロ映画祭で観客賞を受賞するなど多くの観客に支持されている現代のおとぎ話である。

料理作りに人生のほぼすべてを捧げてきたグレゴアは、エデン(楽園)という名をもちながら楽園とは無縁の平凡な暮らしをしている主婦と知り合う。彼女の小さな娘のバースデイにグレゴアが作ったケーキを一口食べたエデンは、その味の虜に。彼女はグレゴアの厨房に押しかけて料理を食べて絶賛し、厨房に通うようになる。2人が友人として親しくなってきた頃、彼女の夫が2人の噂に気づく。

厨房で逢いましょう

冒頭に映し出される美しい料理を手がけたのは、ドイツの5つ星ホテル「エルププリンツ」で料理長を務めるフランク・エーラー。ヨーロッパではミシュランと同等(もしくはそれ以上)に信頼されているレストランガイド『ゴー・ミヨ』にて、「最もクリエイティブな料理人として五指に入る」と絶賛されたエーラーの料理が、本作の重要なキーワード“エロティック・キュイジーヌ”として大いなる説得力を醸している。ちなみにグレゴア特製チョコ・コーラ・ソースはまったくのフィクション。これについてエーラーはまったくふざけた代物、と怒りつつも「それならいっそレシピを教えてくれ!」と冗談をいっていたそう。

厨房で逢いましょう

グルメの話がさまざまに展開するエピソードの中には、個人的に引いた点もいくつかある。エデンが夫のために特別デザートを用意するシーンでは、女性として笑えるわけでも気持ちいいわけでもない中途半端な気分になったし、グレゴアのワインが台無しにされるシーンでは、フィクションとはいえ懸命に作り上げたワイン生産者やそれを何年も大事に熟成させてきた愛好者の心や年月が踏みにじられるような悲しさに襲われた。が、「これは料理の映画ではなく、料理は物語の触媒でしかない」と監督が語る通り、この辺はドライに受け流すべきなのだろう。

オステンドルフは、内向的で料理バカのグレゴアの心が徐々に変化していくさまを、時にはユーモラスに時にはしみじみと的確に表現。演技初挑戦のロシェは必要な仕草や目線だけで感情やシーンを表す技術がなく、散漫な動きが目にちらつくものの、生来のチャーミングな魅力がよく生かされている。

厨房で逢いましょう

いつでも誰にでも訪れる、人生がスイッチする瞬間。そのきっかけは官能的な料理かもしれないし、素直な異性かもしれなくて、スイッチしたその瞬間からもう元の世界へは戻れない。人生の味わいと彩りが豊かに広がるスペシャルな変化の顛末を、淡い恋のソースを添えた一流の料理とともに供する、美味しい作品を召し上がれ。

作品データ

厨房で逢いましょう
公開 2007年8月25日公開
Bunkamura、ル・シネマほか全国ロードショー
制作年/制作国 2006年 ドイツ=スイス
上映時間 1:38
配給 ビターズ・エンド
監督・脚本 ミヒャエル・ホーフマン
出演 ヨーゼフ・オステンドルフ
シャルロット・ロシュ
デーヴィト・シュトリーゾフ
マックス・リュートリンガー
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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