音楽と数学の天才少年ヴィトスの生きる道とは?
情感あふれるピアノの調べにのせて描く
スイス発の味わい深いヒューマンドラマ
音楽と人間模様を丁寧に紡いだ映画がスイスから到着。天才的なピアニストにして数学者である少年が、自分の生きる道を見つけるまでを描く。出演は本作が映画デビューとなる15歳の若きプロ・ピアニスト、テオ・ゲオルギュー、スイスの名優ブルーノ・ガンツ、監督はスイスで名匠として知られているフレディ・M・ムーラー。見事なピアノ演奏にのせて、天才少年の苦悩と葛藤、そして自らの生き方を斬新に選び取るさまを映し出す、ユニークなヒューマンドラマである。
幼い頃からピアノと数学に抜きん出た才能を示し、IQは高すぎて測定不能という少年ヴィトス。飛び級をして12歳で高校生になるも、授業を無視してどんな問題でも軽く解いてしまう彼はクラスメイトから疎まれ、学校側からは天才のための特別学校に通わせるよう勧告される。両親は息子に大きな期待を抱き、特に母親は生活面で過保護に教育面でヒステリックなほど熱心に。 ヴィトスが自分がただの少年に戻れる、変わり者の祖父との時間だけを愛する中、ある事件が起こる。
天才すぎて普通の人の平凡な生活に憧れるヴィトス。はたから聞けば贅沢な話だが、彼にとっては深刻だ。ガンツが演じる家具職人のおじいさんがとても好い。普通の孫としてヴィトスをかわいがり、刃物を禁じられている彼に日曜大工を教え、経験に基づいた確かなアドバイスを与える。「決心がつかなければ、大事なものを手放してみろ」。そしてヴィトスは、彼なりにそれを実行するのである。
本作の注目点はやはり、演奏シーンが差し替えじゃないところ。楽しく、意気揚々と、苦悩し、哀しみ、力強い希望へ…ヴィトスの移り変わる心情をゲオルギューは演奏でも豊かに表現。これは本物のピアニストがピアニストを演じているからこその醍醐味だ。またヴィトスの幼少期を演じた子役も実際にピアノを演奏しているとのこと。こうした演出に、「人の心を揺さぶり、癒す力を持つ音楽に対する愛を何よりもまず伝えたい」というムーラー監督の意思がしっかりと反映されている。
劇中では、リストの「ハンガリー狂詩曲」「ラ・カンパネッラ」、モーツァルトの「ロンド イ短調」「レクイエム」など高度なテクニックを要する曲をゲオルギューが次々と演奏し、クライマックスでは舞台でシューマンの「ピアノ協奏曲 イ短調」を披露。舞台の演奏シーンは、2004年10月にスイス・チューリッヒのトーンハレ大ホールで実際に行われた、ゲオルギュー本人のデビュー・コンサートの映像を使用。当時12歳の小さな身体で情熱的にピアノを奏でる姿には、堂々たる誇りと風格を感じさせる。また、現在15歳となったゲオルギューは2007年8月に日本デビュー公演を行い、好評を得たとのこと。
情感あふれるピアノの調べにのせて、天才ゆえに苦しむ少年の成長と、現代の家族のつながりや、世代を超えた人と人とのコミュニケーションを描く本作。早熟なヴィトスの望みは? 恋は? そして将来は? 決して派手な作品ではないが、ちょっとした謎かけや種明かしをちりばめた粋な演出で、観客を飽きさせないところが大きな魅力。やさしく爽やかな気分にしてくれる佳作である。
公開 | 2007年11月3日公開 銀座テアトルシネマほかにて全国順次公開 |
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制作年/制作国 | 2006年スイス |
上映時間 | 2:01 |
配給 | 東京テアトル |
監督 | フレディ・M・ムーラー |
脚本 | ペーター・ルイジ フレディ・M・ムーラー ルカス・B・スッター |
出演 | テオ・ゲオルギュー ブルーノ・ガンツ ファブリツィオ・ボルサーニ ジュリカ・ジェンキンス ウルス・ユッカー |
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