全身麻痺となった一流編集者が見る夢とは?
煩悩やユーモアなどキャラクターはそのままに
絶望から新しい生へと目覚めていく姿を描く。
「想像力と記憶で、僕は“潜水服”から抜け出せる」。本国フランスで14週連続、イギリスでも6週連続でベストセラーリスト1位をマークした、世界的なファッション誌「ELLE」の本家フランス版・編集長ジャン=ドミニク・ボビーによる自伝小説を映画化。脳卒中で全身麻痺となった彼が、唯一動く左眼のまばたきだけで周囲の協力によって本を執筆していく姿を描く。出演はフランス映画界よりマチュー・アマルリック、エマニュエル・セニエ、カナダ出身のマリ=ジョゼ・クローズ。監督は現代美術界のアーティストであり、実在した人物の伝記映画の監督としても知られるジュリアン・シュナーベル、脚本は『戦場のピアニスト』でアカデミー脚色賞を受賞したロナルド・ハーウッド。独特の感動をもたらすヒューマン・ドラマである。
42歳の「ELLE」編集長ジャンが目覚めると、病室にいた。医師たちの問いかけに答えるが、相手には通じていない。声が出ず、身体が動かないのだ。医師から脳梗塞で倒れ、意識も知性も以前のまま、全身が麻痺してしまうロックト・インシンドローム(閉じ込め症候群)となったと知らされる。確かな実力と地位、裕福な暮らし、3人の子供と内縁の妻、恋人たち。忙しくゴージャスな毎日から、何をすることもできない絶望の淵へ。生きる気力を失いかけたジャンに、言語療法士アンリエットが唯一動く左眼を使い、まばたきで意思を伝えることを提案する。
自分の運命を呪い、受け入れ、これまでしてきたことを懺悔し、そして。こうした実話ベースの物語の多くは家族と涙と人生訓で綴られ、清く正しい感動作であることが多いなか、本作は少し趣が異なる。ジャンは頭の中で気に入らない医者に悪態をつき、美人の療法士たちへの妄想をふくらませ、恋人たちとの情事に思いを馳せ、そして妻の目前で恋人への思いを言葉にして伝える。これまでと変わらず、煩悩やユーモアとともにあることこそ自分を癒し励ます一番の方法。キレイごとではない、ジャンの生々しい心情が胸に響く。
「スクリーン全体が皮膚なんだ」というシュナーベル監督は、ジャンのリアルな目線で映す前半から、印象的な映像を交えていく後半へと立体的に表現。自分だけを見つめていたジャンの目が外に向かっていく様やその心象風景がよく伝わってくる。右目を縫うシーンや海の波間に車椅子でぽつんと居る映像など、インスタレーション・アートを思わせるユニークで感覚的な構成に、画家でもある監督のセンスが十二分に生かされている。本作について監督は語る。「人生の深遠を見つめること。目覚める機会。これは死や病と対峙する我々すべての物語だ。この作品は原作と同様、ひとつの便利な道具だと思ってほしい。死と向き合うことができるようにあなたを助ける道具だ。それが僕の目的であり、そのためにこの作品を作ったのだから」
観る人によって受け止め方や感動のポイントがさまざまに広がる本作。個人的には不思議と、ジャンをはじめ人々の生(なま)のエネルギーを強く感じた。「僕は身障者ではない。ミュータントなのさ」と語るジャンの言葉から、きっとそれは誰もが感じられることに違いない。「健康な時には僕は生きていなかった。存在しているという意識が低く、極めて表面的だった。しかし僕は再生した時、“蝶の視点”をもち復活し、自己を認識する存在として生まれ変わったんだ」
公開 | 2008年2月9日公開 シネマライズほかにて全国ロードショー |
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制作年/制作国 | 2007年 フランス=アメリカ |
上映時間 | 1:52 |
配給 | アスミック・エース |
監督 | ジュリアン・シュナーベル |
脚本 | ロナルド・ハーウッド |
出演 | マチュー・アマルリック エマニュエル・セニエ マリー=ジョゼ・クローズ マックス・フォン・シドー Jr. アンヌ・コンシニ イザック・ド・バンコレ エマ・ド・コーヌ |
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