ダージリン急行

マーク・ジェイコブスの鞄でインド旅行へ
脱力系でスタイリッシュな雰囲気を楽しむ
金持ち3兄弟の気まぐれロードムービー

  • 2008/03/07
  • イベント
  • シネマ
ダージリン急行© 2007TWENTIETH CENTURY FOX

個性的なニュアンスの作品づくりで人気の若手監督ウェス・アンダーソンの最新作。父の死をきっかけに疎遠になった3兄弟が、インドを列車で旅するロードムービーである。交通事故で大怪我を負った長男フランシス、妻の妊娠にストレスを感じている次男ピーター、彼女と別れたばかりの三男ジャック。それぞれに問題を抱える彼らがなんとなく旅をし、なんとなく新たな出発をする。脱力系でいてスタイリッシュ、雰囲気で観る作品である。

ジェイソン・シュワルツマン、オーウェン・ウィルソン、エイドリアン・ブロディ

長男フランシスの呼びかけで、インド北西部を横断するダージリン急行に乗り込んだ次男ピーターと三男ジャック。細かいことで毎日いがみ合いながらも、マーケットや寺院をめぐって過ごしていく。そして失踪した母親の居所をつきとめたフランシスの先導で、ヒマラヤの修道院を訪ねることに。

カラフルで猥雑、神秘的で広大なインドの景色を背景に、流れにまかせて旅をする3人の男たち。フランシスが組んだ日程にそっているはずなのに、どこか行き当たりばったりな感覚が常にあるのが可笑しい。兄弟の抱える問題や目標のすべてがクリアになることもなく、心に訴えかけてくることがさほどあるわけでもなく、今も昔も変わらない新しい出発への象徴がラストに示される本作。家族や恋愛にまつわるエピソードのコラージュのなか、何かがありそうで何もなく、グレーのまま人生はなんとなく続いていく、というゆる〜いニュアンス。雰囲気先行の作品だ。

エイドリアン・ブロディ、ジェイソン・シュワルツマン、オーウェン・ウィルソン

細部まで作りこんだダージリン急行のクラシックなインテリアをはじめ、デザインはとても凝っている。父親の遺産を継いだ裕福な兄弟たちのファッションをはじめとする衣裳は、『マリー・アントワネット』などでアカデミー衣裳デザイン賞を3度獲得したミレーナ・カノネロが担当。また、彼らが持ち歩くスーツケースのデザインはルイ・ヴィトンのチーフ・デザイナーであるマーク・ジェイコブスが手がけ、洗練された趣を大いに演出している。

アンダーソン監督がロマン・コッポラ(フランシス・F・コッポラの息子)と、三男を演じたジェイソン・シュワルツマンと実際に3人でインドを旅して、共同で脚本を書き上げて製作したという本作(ロマンとシュワルツマンは従兄弟とか)。物語として練り上げられているかどうかはともかく、感覚的なものにリアルさが感じられるのは、3人の実体験に基づく驚きや発見を随所にちりばめてあるからだろう。監督が学生時代からダッグを組み続けているオーウェン・ウィルソンは仕切りたがりの長男を演じ、脚本と製作にも携わっているとのこと。若きオスカー俳優であるエイドリアン・ブロディはマイペースで抜け目ない次男を演じ、淡々とした兄弟のやりとりにメリハリを添えている。カメオ出演にビル・マーレイとナタリー・ポートマン、という嬉しいおまけ付き。

ジェイソン・シュワルツマン、オーウェン・ウィルソン、エイドリアン・ブロディ

本物の列車を1台まるごと借り切り、実際にインド北西部の砂漠地帯を走らせながら撮影したという本作。ストーリーとしては物足りなさが否めないが、スタッフとキャストが一緒に乗り込み、ドキュメンタリーのように作られたためか、旅する気分はそれなりに描かれている。ここは3兄弟と旅する感覚で、さらっとダージリン急行に乗り込んでみてはいかがだろう。

作品データ

ダージリン急行
公開 2008年3月8日公開
シャンテ シネほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2007年 アメリカ
上映時間 1:44
配給 20世紀フォックス映画
監督・脚本 ウェス・アンダーソン
共同脚本 ロマン・コッポラ
ジェイソン・シュワルツマン
出演 オーウェン・ウィルソン
エイドリアン・ブロディ
ジェイソン・シュワルツマン
アンジェリカ・ヒューストン
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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