フィクサー

人気脚本家トニー・ギルロイが監督デビュー。
一流法律事務所で暗躍する“もみ消し屋”の男が
巨大企業の陰謀に巻き込まれていく顛末を描く

  • 2008/03/28
  • イベント
  • シネマ
フィクサー©07 Clayton Productions, LLC

出演にジョージ・クルーニー、トム・ウィルキンソン、ティルダ・スウィントン、シドニー・ポラック。アカデミー賞の7部門にノミネートされ、助演女優賞をスウィントンが受賞。『ボーン・アイデンティティー』シリーズの脚本家トニー・ギルロイによる初監督作品。錚々たるキャストとスタッフによる、ハードボイルドなサスペンスである。

大物弁護士が名を連ねる、マンハッタンの一流法律事務所に勤務するクレイトン。労働者階級出身で元刑事検察官である彼は、在職15年でありながら出世の見込みもなく、一介の“フィクサー(もみ消し屋)”でしかない。同僚の敏腕弁護士イーデンスが担当していた裁判が、被告側に有利に解決しようとしていた時、ある問題が発生する。その案件は巨大製薬会社を相手に農業関係者たちが農薬汚染を訴えた、3000億円にのぼる集団薬害訴訟だった。

シドニー・ポラック、ジョージ・クルーニー

製薬会社の悪質な証拠を見つけ、良心の呵責からキレる躁鬱のイーデンス。製薬会社の女性本部長として、その重責と野心に支配されているカレン。自分の立場と今後の指針に悩みつつ、イーデンスの言動のもみ消しに奔走するクライトン。合併の動きのある法律事務所で、何よりも成果を優先する経営者のバック。企業や法律事務所の利益至上主義と、その関係者たちが個々に抱える内面の問題。裁判問題をテーマにしながら法廷の外で起きていることを中心にテンポよく描き、観る側をストーリーにどんどん引き込んでいく。クレイトンとともに、いつの間にか疑惑の渦中に足を踏み入れているかのような感覚が味わえるところが興味深い。

ジョージ・クルーニー

本作で助演女優賞を受賞したスウィントンは、企業弁護士役を地味ながら奥深く表現。じっとりとしみた脇汗を疲れた顔で眺め、上質なスーツの下のゆるんだ身体をさらし、ビジネスウーマンの焦燥を全身で伝えている。名優ウィルキンソンは自分なりの正義を通そうとするイーデンスを、もともと製作としての参加から監督のオファーによって出演を受け入れたというポラックは、情がありながらも経営を優先するバックを確かな演技力と説得力で演じている。そして主演と製作総指揮をかねるクルーニーは、自身の在り方に迷いながらも道を見出すクレイトン役で、渋みを効かせたいい味をだしている。

ティルダ・スウィントン、ジョージ・クルーニー

クルーニーとスティーブン・ソダーバーグの映画製作会社と、ポラックとアンソニー・ミンゲラの映画製作会社が共同で手がけた本作。さまざまな伏線が絡み合ってサスペンスフルに展開し、最後に頭の中をすっきりと整理してくれる明快な結末がスマート。脚本・監督をつとめたギルロイの持ち味が存分に活かされている。本作で監督として良いスタートをきったギルロイは、クライヴ・オーウェンとジュリア・ロバーツ出演、’09年に全米公開予定のスリラー『Duplicity』を準備中とのこと。ギルロイの脚本・監督による次回作も大いに楽しみである。

作品データ

フィクサー
公開 2008年4月12日公開
みゆき座ほかTOHO系にて全国ロードショー
制作年/制作国 2007年 アメリカ
上映時間 2:00
配給 ムービーアイ
監督・脚本 トニー・ギルロイ
出演 ジョージ・クルーニー
トム・ウィルキンソン
ティルダ・スウィントン
シドニー・ポラック
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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