大いなる陰謀

政治、マスコミ、教育、軍隊それぞれの立場と思い。
アメリカによるアフガン侵攻の側面を描く
政治的示唆を強力に含む生々しい人間ドラマ

  • 2008/04/18
  • イベント
  • シネマ
大いなる陰謀©2007 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc.

トム・クルーズ、メリル・ストリープ、ロバート・レッドフォードら大物俳優が共演。アメリカ政府によるアフガン侵攻を切り口に、政治、マスコミ、教育、軍隊とそれぞれの立場における思想と現実を描き、問題提起をする社会派の作品。監督はロバート・レッドフォード、脚本は『キングダム/見えざる敵』でデビューしたマシュー・カーナハン。アメリカの現状を側面から生々しく映し出す、骨のあるヒューマンドラマである。

ネットワーク局の報道担当として活躍するベテランの女性ジャーナリスト、ロス。共和党の次期大統領候補といわれるアーヴィング上院議員から呼び出しを受けた彼女は、独占インタビューをすることに。彼の目的は、アフガニスタン侵攻における画期的な新しい作戦とその必要性を広く知らしめることだった。その頃アフガニスタンの空軍基地では、大学生から志願兵となったアーネストとアーリアンが、アーヴィングの発案による高地占領作戦の説明を受けている。そして作戦が開始された頃、カリフォルニア大学では志願兵2人の恩師であるマレー教授が、学生トッドを呼び出す。優秀だが社会に幻滅して怠惰な暮らしに浸りきっているトッドに、教授はその優秀な資質を建設的に生かしていくよう導きたいと考えていた。

メリル・ストリープ

政府で、空軍基地で、大学で。ある日のある時刻にアメリカとアフガニスタンで同時に起こっている出来事。誰もが自分なりの正義と信念を抱いて向き合いながら、ひずんだ歯車に巻き込まれて犠牲者が増えていく。アメリカの現状をシビアな視点でとらえ、冷静に淡々と描き出す。その切実な緊迫感や緊張感は日本人には少し伝わりにくい面もあるが、アフガン戦争で起こってしまっている悪循環の一因について、リスクを厭わずはっきりと示されていることに驚いた。

デレク・ルーク、マイケル・ペーニャ

レッドフォードは本作で7年ぶりに監督を手がけ、マレー教授役で出演も。「私たちひとりひとりが、この世界をより良いものにしていくために、人生における選択をいかに行っていくかについての映画だと思うんだ」と語っている。製作総指揮もつとめたクルーズは、カリスマ性と政治手腕をあわせもつアーヴィング上院議員を演じる。「とても難しい役だった」と語り、演じるに当たってかなりのリサーチを重ねたとのこと。好感度のある役とはいえないが、かなりハマっている。ストリープは確かな演技力で、立場と良心の間で惑いながらも議員から真実を引き出そうとするジャーナリストを好演。クルーズとストリープがやりあう論争シーンは見どころだ。

トム・クルーズ

1919年にチャーリー・チャップリンらによって創設された伝説的な映画製作会社であり、紆余曲折を経て’06年にクルーズが経営者に就任した新生ユナイテッド・アーティスツの最初の作品となった本作。クルーズは語る。「僕が強く思うのは、これは間違いなく対話を促進するであろう作品であり、何割かの観客の考えを、彼らの視点にかかわらず変えてしまうであろう作品だということだ。この作品は素晴らしい娯楽作品であると同時に、人々に参加を促す点でエキサイティングだとも思っている」。大統領選挙を控えたアメリカでこの作品を観た人々は、民主党支持の意思を固めるのだろうか。そして日本では、どのように受け止められるのだろう。

作品データ

大いなる陰謀
公開 2008年4月18日公開
日劇1ほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2007年 アメリカ
上映時間 1:32
配給 20世紀フォックス映画
監督 ロバート・レッドフォード
脚本 マシュー・マイケル・カーナハン
出演 トム・クルーズ
メリル・ストリープ
ロバート・レッドフォード
マイケル・ペーニャ
デレク・ルーク
アンドリュー・ガーフィールド
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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