マンデラの名もなき看守

人種差別主義に屈せず意思を貫き
投獄されたネルソン・マンデラの27年とは。
平等な社会を勝ち取るまでの経緯を描く感動作

  • 2008/05/16
  • イベント
  • シネマ
マンデラの名もなき看守©ARSAM INTERNATIONAL,CHOCHANA BANANA FILMS,
X-FILME CREATIVE POOL,FONEMA,FUTURE FILM FILM AFRIKA

南アフリカで弁護士から政治家に、黒人解放運動指導者となり、長く険しい道を経て大統領になった偉人。ネルソン・マンデラ氏が初めて映画化を許したという実話をベースにした物語。出演は演技派のジョセフ・ファインズ、デニス・ヘイスバート、美しい若手女優ダイアン・クルーガー。監督は『ペレ』と『愛の風景』でカンヌ国際映画祭の最高賞パルムドールを2度受賞したビレ・アウグスト。マンデラ氏が政治犯として投獄されていた27年間の軌跡を、氏を担当していたひとりの刑務官の目を通して描く、しみじみとしたヒューマンドラマである。

'68年の南アフリカ。アパルトヘイト政策によって黒人には投票権がなく、住居や就職、教育においても厳しく制限。政府は反体制組織を弾圧し、指導者たちをロベン島の過酷な刑務所に収容した。マンデラが使う言語コーサ語を理解する刑務官のグレゴリーは彼の担当になり、武力蜂起など反体制の運動に関わる秘密の会話やメモを報告する。グレゴリーは忠実に任務を果たしていく中、次第にマンデラの人間性や思想に惹かれていく。

原作は実在した刑務官ジェームズ・グレゴリーの手記『Goodbye Bafana: Nelson Mandela, My Prisoner, My Friend』。グレゴリーとその家族たちは当初、なんの疑問もなく黒人を差別し、ネルソン氏をただの悪質なテロリストだと信じ込んでいるが、その心情はじわじわと変化していく。そこで起こる自身のとまどいや地域社会からの軋轢が、観る側にひしひしと伝わってくる仕上がりだ。'48年に施行され、国連に「人類に対する犯罪」と言わしめた南アの人種隔離政策、アパルトヘイトが撤廃されたのは'91年。まだたったの十数年しかたっていない。本作は民族を超えた人間同士の共存や絆を描く感動作であるが、キレイごとだけで済ませてはいない。実際に行われていた過酷な逸話も要所に差し入れ、南アの人々が乗り越えてきた葛藤や苦悩、史実をきちんと伝えるように配慮されている。

ジョセフ・ファインズ、ダイアン・クルーガー

刑務官グレゴリー役を演じたファインズは、社会の風潮に反して白人でありながらマンデラ氏に徐々に傾倒していく、揺れ動く内面を丁寧に表現。マンデラ役のヘイスバートは、氏の演説を繰り返し聞いてクセやアクセントを習得するなど、現存する偉人を演じることに最善の努力をして臨んだとのこと。落ち着いたよく響く声や包容力のあるカリスマ性など、その誠実な存在感には説得力がある。夫を信じて支えるグレゴリーの妻グロリアは、クルーガーが好演。彼女が語るとおり“平均的な一般白人女性”として、当時の社会を映すキャラクターとなっている。

現在は博物館となっているロベン島、改装されたポールスムーア、そして'90年にマンデラ氏が釈放された時の状態で保存されているビクターフェルスター。氏が実際に収監された3つの刑務所にセットを組み、現地で撮影された本作。マンデラ氏は'93年に当時の南アフリカ大統領F.W.デクラーク氏とともにノーベル平和賞を受賞。'94年に大統領に選出され、'99年に政界から引退。今年で90歳となる現在はユネスコの親善大使に就任しているとのこと。世情や立場、民族や人種を超えてつながっていく友愛、これからの社会に必要な融和の思想と赦し。マンデラ氏が27年かけて身をもって証明した思想が胸を打つ、感動のヒューマンドラマである。

作品データ

マンデラの名もなき看守
公開 2008年5月17日公開
シネカノン有楽町1丁目ほかにて全国順次ロードショー
制作年/制作国 2007年 仏・独・ベルギー・伊・南ア合作
上映時間 1:57
配給 ギャガ・コミュニケーションズ
監督・脚本・台詞 ビレ・アウグスト
脚色・脚本・台詞 グレッグ・ラッター
原作 ジェームズ・グレゴリー
出演 ジョセフ・ファインズ
デニス・ヘイスバート
ダイアン・クルーガー
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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