アクロス・ザ・ユニバース

ボーイ・ミーツ・ガールをテーマに描く
ビートルズonlyのミュージカル・ムービー。
テイモア監督が開花させた極彩色の映像世界

  • 2008/07/25
  • イベント
  • シネマ
アクロス・ザ・ユニバース©2007 Revolution Studios Distribution Company,LLC.All Rights Reserved.

「Let it Be」「All You Need is Love」「Hey Jude」など33曲のビートルズの曲のみで構成されたミュージカル・ムービー。出演は若手の実力派エヴァン・レイチェル・ウッド、本作をきっかけに人気を得たジム・スタージェス、安定した演技力で認められているジョー・アンダーソン。監督は’02年にアーティスティックな映画『フリーダ』を製作したジュリー・テイモア。本国アメリカでは23スクリーンの限定公開に始まり、口コミで人気が広がって予想を越えるヒットをマーク。“ボーイ・ミーツ・ガール”をテーマに、ビートルズの曲と歌詞によってドラマを語る、めくるめくヴィヴィッドな映像世界である。

1960年代のイギリス。リバプールの造船所で働くジュードは、自分の父親がアメリカで生きていることを知り、アメリカの東海岸へ。アメリカに到着早々、ひょんなことから青年マックスと意気投合したジュードは、はつらつとした魅力をもつ彼の妹ルーシーに恋をする。大学を自主退学したマックスはジュードとともにNYでミュージシャンたちと共同生活を開始。ルーシーも加わり、刺激に満ちた毎日を楽しむ中、マックスがベトナム戦争に徴兵されてしまう。

ジム・スタージェス

ビートルズの名曲を俳優たちがカヴァーしている本作。歌詞とメロディが登場人物の感情やストーリーを語ることから、テイモア監督は歌をできる限りライヴ録音で収録。当時の音の感触を大切するため、その機材の多くは’60年代に使われていたアナログ・テープやヴィンテージ・マイクを使用したとのこと。ビートルズのファンにとってカヴァーは邪道と思えるかもしれないが、曲と歌詞が映えるよう斬新に構成され、その新鮮な魅力が生き生きと輝いていることは間違いない。監督は語る。「ビートルズの栄光が重いプレッシャーになっている気分よ。オリジナルはパーフェクトだから、ビートルズと競うのではないと考えているわ」。また、プレス資料でとても興味深かったことは、映画に仕込まれたネタを解説する“ビートルズ・トリビア”。字幕では割愛されてしまっている部分にも実はさまざまな含みがあり、かなり面白い。現時点では公式HPにその情報はないが、アップされることを期待している。

ジム・スタージェス、エヴァン・レイチェル・ウッド

全編が見どころというくらい印象的なシーンが満載の中、特に驚かされたのは「I WANT YOU」が流れる徴兵検査のシーン。ポスターのアンクル・トムが「I WANT YOU」と叫び、巨大な自由の女神を肩に担いだ兵士たちが行進しながら「She's so heavy」と歌う。徴兵検査をミュージカルに仕立てた映像はアイディアとインパクトにあふれ、歌詞の符号があまりにも合うことに衝撃を受けた。ブロードウェイ・ミュージカル『ライオンキング』の演出でトニー賞など数々の賞を受賞し、有能な舞台演出家としても知られるテイモア監督。彼女は10代でインドやスリランカに留学し、パリでパントマイムを学び、アメリカの大学を卒業後は日本で人形浄瑠璃や歌舞伎を研究。インドネシアの演劇に魅了されて自ら劇団を結成し、オリジナルの作品の作・演出を手がけた、という個性的でワールドワイドな感性と経歴の持ち主。本作ではその才能があますことなく発揮されている。

ジム・スタージェス、エヴァン・レイチェル・ウッド

スタージェス、ウッド、アンダーソンら若手俳優が、予想以上に魅力的な歌と踊りで惹きつける。また、豪華なカメオ出演の面々にぜひ注目を。U2のボノがドクター・ロバート役で「I Am The Walrus」を歌い上げ、ミュージシャンのジョー・コッカーが「Come Together」などを渋く歌い、看護師に扮したサルマ・ハエックが「Happiness Is A Warm Gun」に合わせてセクシー・ダンスを披露。贅沢な顔合わせが作品の魅力により凄みを与えている。
 ビートルズの曲という普遍的な極上の素材を、テイモア監督の豊かな才能がオリジナルに開花させた極彩色の世界。言葉やストーリーで語られると陳腐になりがちなテーマや思いは、ビートルズの曲に託されることによって、とても素直に胸に響いてくる。「愛こそすべて。愛さえあれば何もいらない」と。

作品データ

アクロス・ザ・ユニバース
公開 2008年8月9日公開
渋谷アミューズCQNほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2007年 アメリカ
上映時間 2:11
配給 東北新社
監督・原案 ジュリー・テイモア
脚本 ディック・クレメント
イアン・ラ・フレネ
出演 ジム・スタージェス
エヴァン・レイチェル・ウッド
ジョー・アンダーソン
デイナ・ヒュークス
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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