メキシコと米国が黙認し続ける連続暴行殺人とは?
ナヴァ監督がJ.loとバンデラスを迎えて痛烈に描く
事実を基に練り上げられたヒューマンドラマ
1993年から15年間で推計5000件。メキシコのチウアウア州、フアレスで闇に葬られ続けている婦女暴行殺人事件に肉迫する問題作。出演はシンガーとして成功しているジェニファー・ロペス、ラテンの貴公子アントニオ・バンデラス、ベテランのマーティン・シーン。監督・脚本は’83年の『エル・ノルテ/約束の地』でアカデミー賞脚本賞にノミネートされたグレゴリー・ナヴァ。事実を基に推察を加えて脚本を練り上げ、サスペンスの要素をたっぷりともたせながら、正義の在り方をシビアに訴えかける。資本主義社会に都合の悪い劣悪な事実を鋭く突きつける、強靭なヒューマンドラマである。
シカゴの新聞社勤務の記者ローレンは上司の命令により、連続女性殺害事件を取材するためにアメリカとメキシコの国境の町フアレスへ。現地では警察や政治家が汚職にまみれ、事件の報道すらままならない、という状況を知る。そこで弾圧に屈することなく現地で報道を続けている昔のビジネス・パートナー、ディアスにローレンは連絡。彼の会社をローレンが訪ねた時、少女エバが母に付き添われてやってくる。エバは暴行殺人の現場から自力で生還し、ディアスに助けを求めに来たのだった。
圧倒的な作品力と説得力。受け入れ難いほど酷い事実を基にした暗く重いテーマでありながら、ドラマとしての魅力で最後まで惹きつけていくところがすごい。“事実を、その原因と背景を知ってほしい”というナヴァ監督の強い意思が痛いほど伝わってくる。当事者や関係者が諦めるしかないであろう現実とは異なり、女性ジャーナリストと被害者女性が力をあわせて卑劣な犯罪に立ち向かっていく姿がひどく清廉で、そのひたむきな正しさに心を揺さぶられる。
取材を渋々スタートしながら真実の報道へとのめりこんでいく記者ローレン役をロペスが熱演。映画に出演してもスター然とした雰囲気で浮くことが少なくないロペスだが、ここ数年に出演した作品の中で一番光っている。やはり彼女にはかわいい役よりも闘う強い女の方がよく似合う。弾圧に屈せず報道に妥協をしないディアスをバンデラスが好演。あふれる生命力とあたたかな人間味で、ダークな物語に明るい希望の要素を与えている。またメキシコで活躍する若手女優マヤ・ザパタが、被害者女性エバの混乱や自立など複雑な心理を丁寧に表現。シーンは組織的な立場を優先するローレンの上司ジョージを演じ、やりきれない現実の苦渋を伝えている。またラテンの人気アーティスト、フアネスが本人役で出演していることも話題に。
メキシコ政府が外貨獲得などのために外国企業に有利な制度を作り、マキラドーラ(安い労働力で輸出製品を作るための加工工場)が国中で増加。そこで働く貧しい少女たちが暴行・殺害されて砂漠地帯に捨てられる。互いの利権を守るために、メキシコやアメリカが国家ぐるみでうやむやにし続けてきたと思われる事実を“映画”という長く残るカタチで打ち出したナヴァ監督。実際にメキシコで撮影中は、銃弾を撃ち込まれたりカメラが盗まれたりするなど脅迫めいた妨害を受けたのだそう。監督は語る。「私のできる最も有効なことは、この状況をヒューマンドラマとして作り、皆さんに知ってもらうことでした。そこからまるで事件がなかったかのような態度を続けるメキシコ政府に、早く解決するように圧力をかける。この映画自体が、このことを広く知ってもらうための行動でもあるのです」
歪んだ現実とそれを正す希望の存在を示す力強い作品。「楽しんだ後に正義について考える、そういう映画を作りたかった」というナヴァ監督の狙い通り、観客を自然に議論へと促すに違いない。いま使っているパソコンも実は彼女たちが組み立てたもので、間接的とはいえ加害者側として事件に加担してしまっているのかもしれない…そう思うとゾッとする。世界中で一人でも多くの人がこの映画を観て、一刻も早く解決への道が開かれていくことを切に願う。
公開 | 2008年10月18日公開 シャンテ・シネほかにて全国順次ロードショー |
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制作年/制作国 | 2008年 アメリカ |
上映時間 | 1:52 |
配給 | ザナドゥー |
監督・脚本 | グレゴリー・ナヴァ |
出演 | ジェニファー・ロペス アントニオ・バンデラス マヤ・ザパタ マーティン・シーン フアネス |
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