京都で千年続く謎の祭り“ホルモー”とは!?
恋あり友情あり脱力系ファンタジー満載。
カラッと笑えて意外と爽やかな青春映画
理屈ヌキで面白い。CX系のドラマ『鹿男あをによし』の原作者、万城目学の同名のデビュー作が映画化。出演は山田孝之、栗山千明、濱田岳、石田卓也、芦名星、斉藤祥太、斉藤慶太、荒川良々、石橋蓮司。監督は『ゲゲゲの鬼太郎』などを手がける本木克英。恋あり友情あり、男の面子に女の意地、人間味満載で脱力系ファンタジーもふんだんに。奇天烈なエピソードにカラッと笑える青春映画である。
二浪して念願の京都大学に受かった“イカ京(いかにも京大生)”のさえない安倍は、“鼻筋の美しい”早良京子につられて正体不明のサークル京大青竜会に入会。つかみどころのない会長の菅原、気の小さい帰国子女の高村、大木凡人似の地味系女子・楠木、俺様で高圧的な芦屋、温和な双子の三好兄弟など一回生の個性的な面々となじんできた頃、青竜会の実体を知る。それは、京都で千年続く謎の祭り“ホルモー”を継承する集団だった。
「レナウン ワンサカ娘」(’60年代に流行した小林亜星作曲のCMソング)を熱唱しながら異様なテンションで裸踊り、“オニ語”で号令を発しながら奇妙なポーズをとる。神社に舞踊を捧げ、式神を操る修行を積み……文字にすると真面目なはずの内容が、映像では最高に可笑しい。ぴょんぴょん跳ねて「きゅきゅ」と鳴く“オニ”(式神)たちのかわいさも相まって、最初から最後までたっぷりと魅せてくれる。
原作は'06年に発表され、若い世代を中心にロングベストセラーとなっている同名の人気小あs説。作家の万城目学はこの作品で第4回ボイルドエッグズ新人賞を受賞し、小説家デビュー。京都の街や学生たちの味わい深い雰囲気は、自身が京都大学に通っていた頃の感覚が大いに生かされているのだろう。また'08年にCX系のドラマで話題となった『鹿男あをによし』の原作は第137回直木賞最終候補に選出。映像との相性がとても良い作家として、今後の作品にも注目したい。
オニたちをはじめVFXは『ブレイブストーリー』などのアニメーション作品を手がけるGONZOが、オニ語の号令につけるポーズの指導はパパイヤ鈴木が担当。ポーズは映画オリジナルとのことで、ホルモーで繰り広げられる“祭り”こと戦いは、真剣勝負でありながらあのポーズと号令、というギャップがすごく笑える。「ゲロンチョリー(潰せ!)」のおたけびがたまらない。
安倍役はシリアスもコメディもいける山田が好演。早良に入れ込んだり気に食わない芦屋と対立したり、右往左往する姿がユーモラスだ。大木凡人似の地味女子・楠木を美少女の栗山が演じるのは少々微妙ながら、もっさりとしたおかっぱ頭と黒ぶちメガネそれらしい雰囲気に。なんといってもユーモアの要は濱田が演じる高村。チョンマゲで日常生活を送る姿がたまらない。小悪魔系のモテ女子・早良役は舞台版で同役を演じた芦名が、俺様の芦屋役は舞台版では安倍を演じた石田がともにハマっている。揃ってポーズをとる姿がキマる三好兄弟役を双子の斉藤祥太&慶太、青竜会の現会長・菅原役に独特の飄々とした存在感がいい味をだしている荒川良々、エキセントリックな飲み屋のおやじに石橋蓮司、と良いメンバーが脇を固めている。
またロケーションは冒頭の葵祭に始まり、祇園祭りや大文字焼きなどのイベントや、平安神宮や先斗町などの名所など、京都らしさが満喫できるのも見どころのひとつ。劇中で高村が暮らす“百万遍寮”は、京都大学に実在する学生寮“吉田寮”にて撮影。学生たちが大学から自治を勝ち取っているというこの寮では、これまでにさまざまな撮影の申込を断ってきたそうだが、今回は2ヶ月の交渉の末に遂に撮影を許諾。昔ながらの木造住宅で学生たちが過ごす様も興味深い。
本作の一番面白いところは、登場人物たちが恋にも友情にもホルモーにも、いたってフツーに本気で取り組んでいるところ。ふと思えば、恋も青春も当事者にとってどれだけ必死でも本気でも、客観的に見れば間抜けでおかしなことばかり。その感覚がとてもいい感じに描写されているのだ。激しい暴力や性的描写、不幸な設定などは一切なく、オーソドックスな青春ストーリーを軸に置きながらこれだけ面白い。奇抜な祭りを創作した原作のもつ確かな力に、映像に映えるオリジナルの演出や出演者たちの魅力が加わって完成した良作。子供から大人まで誰も楽しめる作品はやっぱり好い。ちょっとカッコ悪くてすごく面白くて、実は意外と爽やかな青春映画なのである。
公開 | 2009年4月18日公開 丸の内ピカデリー2ほかにて全国ロードショー |
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制作年/制作国 | 2009年 日本 |
上映時間 | 1:53 |
配給 | 松竹 |
監督 | 本木克英 |
原作 | 万城目学 |
脚本 | 経塚丸雄 |
出演 | 山田孝之 栗山千明 濱田岳 石田卓也 芦名星 斉藤祥太 斉藤慶太 荒川良々 石橋蓮司 |
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