スター・トレック

青春時代の人間ドラマ×SFアクション
歯切れのいい展開とVFXの臨場感で迫りくる
J.J.エイブラムスが仕掛ける新生スター・トレック

  • 2009/05/22
  • イベント
  • シネマ
スター・トレック©2008 Paramount Pictures. Star Trek and Related Marks and
Logos are Trademarks of CBS Studio Inc. All Rights Reserved.

アメリカで6本のテレビシリーズと10本の劇場用映画が製作され、40数年前から世界中で親しまれているスター・トレックシリーズ。そのシリーズ作としてではなく、“’66年のオリジナルのTVドラマシリーズを基に再構築した新たな作品”というスタンスで、気鋭のJ.J.エイブラムス監督が放つ作品。出演はハリウッドの若手俳優クリス・パイン、ドラマ『HEROS』出演中のザッカリー・クイント、イギリスのコメディ俳優で脚本も手がけるサイモン・ペッグ、実力派のエリック・バナ。オリジナルから継いだ人間ドラマ、エキサイティングな展開とアクション、SFとしての設定や設備の妙で惹きつける、魅力的なSFアクション大作である。

宇宙事業が発達している未来のアメリカ。22歳のジェームズ・T・カークは自分の進むべき道がわからないまま、旧型バイクを乗り回してケンカするなど空虚に過ごしていた。ある日、カークはバーで惑星連邦艦隊の新型艦USSエンタープライズの初代キャプテン、パイクと出会う。パイクはカークの父がすばらしいキャプテンだったと語り、カークを艦隊にスカウト。翌日にカークは惑星連邦艦隊へと志願する。それから3年、カークは抜群の適正がありながらトラブルメーカーゆえに司官になれないまま。冷静で優秀なメンバーであるスポックに、昇任試験での不正行為を見抜かれたカークは謹慎に。が、緊急事態で若いメンバーも宇宙へ出動することになった際、友人の医師マッコイの機転でUSSエンタープライズにもぐりこむことに成功し……。

スター・トレック

いわゆる人気シリーズの焼き直しかと思いきや、冒頭15分で1話分のエピソードを物語るほどの劇的な展開を描き、いきなり観る側の心をわしづかみに。’66年の『宇宙大作戦』から始まったオリジナルを基に、カーク船長と副長ミスター・スポックらよき仲間たちとの出会いと、地球から宇宙へ調査の旅に出る前のエピソードがドラマティックに描かれている。映像制作はCGに頼りすぎず、実際に組んだセットの撮影を中心にVFXで迫力を高めたとのこと。既存のキャラクターを生かしつつ、エイブラムス監督のセンスと最新技術で刷新された世界観はなかなか新鮮。監督は“トレッキー”(スター・トレックの大ファン)ではないそうで、オリジナルを知らなくても存分に楽しめる仕上がりとなっている。

人生の目的を見出せない青年カーク、バルカン人と地球人との混血であることから自らの居場所と在り方を自問するスポック、直感型のカークと理論派のスポックの対立、人種で差別されるということ、仲間同士の連携と信頼、自分を律して大事な役目を遂げるということ。宇宙船同士の戦いやスリリングなアクションのみならず、人間ドラマもよく描かれている本作。原作者ジーン・ロッデンベリーによるオリジナルでは、明るく理想的な未来社会を描きつつ、’60年代にはタブー視されていた人種差別などの社会問題をSFドラマとして隠喩。アメリカのTV番組で初めてアフリカ系アメリカ人が主要キャラクターとして登場し、アジア系やロシア系、スコットランド系などさまざまな人種のメンバーが協力して宇宙を旅することに、当時には画期的な精神が投影されていたとのこと。エイブラムス監督は語る。「この映画には予想をはるかに超える、最先端の高いレベルのビジュアル・エフェクツを駆使したショットが1000以上あります。しかし、この映画にとって最も大事なのは最新の技術を見せることではありません。シリーズのアイコンとなっているものを大きく変えずに、人間を描くことです」。

スター・トレック

鋭い直感と大胆な行動力を制御しきれていない、若き日のカーク役はパインが熱演。オリジナルの印象があまりにも強いスポック役は、クイントがさりげなく表現。若いながら生来の気質であろう冷静沈着な雰囲気がよくハマっている。医師マッコイ役はオリジナルのファンだったというカール・アーバンが、美人の異種言語学者ウフーラはゾーイ・サルダナが、コミカルだけど優秀なエンジニアのスコット役はペッグがいい具合に好演。そしてオリジナルの“ミスター・スポック”こと現在78歳のレナード・ニモイも出演。どのような登場をするか、ぜひ注目を。

本作が長編映画の監督2作目となるエイブラムスは、’06年に『M:i:III』で長編映画の監督デビュー。『フェリシティの青春』『エイリアス』などのTVドラマで大きな成功を収め、現在オンエア中の『LOST』では製作・監督・脚本を手がけ、’05年のエミー賞の作品賞や監督賞など数々の賞を受賞。本作でもその手腕を大いに揮っている。脚本は『M:i:III』やドラマ『フリンジ』などでもエイブラムスと組んでいるロベルト・オーチー&アレックス・カーツマンのコンビが担当。初めは責任の重さに躊躇もしたものの、オーチーが“トレッキー”ということもあり、カークとスポックによる最初のミッションを生き生きと描いている。

クリス・パイン

「Space, the final frontier.(宇宙、そこは最後のフロンティア)」というフレーズとテーマ曲「Theme From Star Trek」(日本ではクイズ番組『アメリカ横断ウルトラクイズ』のテーマとして知られる曲)、スポックによるバルカン人の挨拶「長寿と繁栄を」などのお約束もしっかりと。そしてスター・トレックを知らない観客にも面白さが伝わる次世代シリーズ。アメリカではオープニング3日間で予想を大幅に上回る7650万ドル(約80億円)の興行収入となり、続編の製作も決定したとのこと。次回も期待できそうだ。

作品データ

スター・トレック
公開 2009年5月29日公開
丸の内ルーブルほか全国ロードショー
制作年/制作国 2009年 アメリカ
上映時間 2:06
配給 ピクチャーズ ジャパン
監督・製作 J.J.エイブラムス
脚本 アレックス・カーツマン
ベルト・オーチー
原作 ポール・アボット
出演 クリス・パイン
ザッカリー・クイント
エリック・バナ
カール・アーバン
ゾーイ・サルダナ
サイモン・ペッグ
ジョン・チョウ
アントン・イェルチン
ウィノナ・ライダー
レナード・ニモイ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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