愛を読むひと

ドイツの作家によるベストセラーを映画化。
20年の時を経てつながっていく恋愛を描き
ナチス支配下のドイツのモラルを問う人間ドラマ

  • 2009/06/05
  • イベント
  • シネマ
愛を読むひと©2008 TWCGF Film Services II, LLC. All rights reserved.

出演はイギリス出身の人気俳優ケイト・ウィンスレットとレイフ・ファインズ、そして本作の演技が高く評価されているドイツの若手俳優デヴィッド・クロス。監督は’00年の『リトル・ダンサー』、’02年の『めぐりあう時間たち』に次ぎ、本作が長編3作目となる舞台出身のイギリスの名匠スティーヴン・ダルドリー。原作は当時まだ無名だったドイツの作家ベルンハルト・シュリンクが’95年に発表し、世界的なベストセラーとなった『朗読者』。ナチス支配下の’50年代から現代まで、20年以上の時を経て紡がれるある男女の恋と絆、その顛末を描く。甘く切ないメロドラマであり、現代に生きる観客に疑問を問いかけ、希望をつないでいくヒューマンドラマである。

 

’58年のドイツ。15歳のマイケルは36歳のハンナと出会い、初めての激しい恋におちる。ハンナの部屋で2人は毎日のように愛し合い、マイケルはその関係にのめりこんでいく。ハンナに本の朗読を頼まれたマイケルは、ベッドでチェーホフやヘミングウェイ、カフカを朗読。ハンナは幸せそうに耳を傾ける。この幸せな日々がずっと続くと信じていたある日、マイケルがいつものように部屋に行くと、ハンナは家財とともに姿を消していた。8年後の’66年、法学専攻の大学生になったマイケルが裁判を傍聴するため法廷を訪れると、そこに被告人としてハンナがいた。戦時中にナチ親衛隊の看守だったことから、ユダヤ人虐殺に加担した罪を問われているのだった。

ケイト・ウィンスレット

映画を観慣れている人になら、ストーリーの概要は前半でわかるだろうメロドラマ。ただ岐路に立った時の登場人物の選択や態度、それぞれの立場やプライド、時代や年齢とともに移り変わってゆく微妙な心理などの表現がなかなかに深い。イギリスの劇作家であり監督も手がける脚本家デヴィッド・ヘアの脚色によって、シリアスな物語にぬくもりのある爽やかな後味がさりげなく加えられている。

ハンナ役は原作者も映画化を許可した時から思い描いていたというウィンスレットが、30代〜50代のハンナをくっきりと表現。バツ1で10代の娘がいる弁護士となった20年後のマイケル役は、ファインズが安定した存在感で好演。少年時代〜大学生のマイケルは、クロスが体当たりで熱演。濃厚なベッドシーンがある本作では、配役時にマイケル少年と同じ15歳だったクロスが18歳になってから撮影するようにスケジュールが組まれたとのこと。ダルドリー監督はクロスを「天からの贈り物」と絶賛。恋に溺れる少年、感情と理性と社会性のはざまで惑う青年の苦悩が切実に伝わってくる。また大学教授役でブルーノ・ガンツが味わい深い演技を披露している。

ケイト・ウィンスレット、デヴィッド・クロス

そもそも10年以上前に映画化が決まり、脚本・監督にアンソニー・ミンゲラ、制作にシドニー・ポラックが決まっていたという本作。それから10年、なかなか製作できずにいる中、映画化したいというダルドリーの申し出を、ミンゲラとポラックは自分たちがプロデューサーとして残ることを条件に受けたのだそう。そして映画の完成を待たず、2人は’08年に相次いで他界。ダルドリー監督は「我々のこの映画に対する意欲を、2人はきっと誇りに思ってくれているだろう」とコメントしている。

デヴィッド・クロス、ケイト・ウィンスレット

年齢差21歳の男女の恋愛ドラマであり、ナチス支配下の時代のモラルを問うヒューマンドラマでもある本作。ユダヤ人の残虐な弾圧というドイツの暗黒の史実、当時そこかしこにあったであろう白と黒だけでは割り切れない状況をドラマの背景として描き、観客に静かに問いかけてくる。個人的に響いたのは終盤、原告側の女性イラナの理念と情、双方に筋を通した態度。そして原作にはないというマイケルの最後のシーン。現実的な将来の希望につながるほのかな予感が、とても好い。大人の琴線を響かせる、熱く静かな物語である。

作品データ

愛を読むひと
公開 2009年5月30日公開
TOHOシネマズ スカラ座ほか全国ロードショー
制作年/制作国 2008年 アメリカ
上映時間 1:57
配給 ショウゲート
監督 スティーヴン・ダルドリー
脚本 デヴィッド・ヘア
原作 ベルンハルト・シュリンク
製作 アンソニー・ミンゲラ
シドニー・ポラック
出演 ケイト・ウィンスレット
レイフ・ファインズ
デヴィッド・クロス
レナ・オリン
ブルーノ・ガンツ
アレクサンドラ・マリア・ララ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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