太宰治の短編を基にしたオリジナルの物語。
戦後間もない昭和20年代の日本を舞台に
放蕩男と賢妻の道行きを描く大人のための恋愛譚
今年に生誕100年を迎えた太宰治の同名の短編小説をベースに、オリジナルに練り上げられた物語。出演は松たか子、浅野忠信、室井滋、伊武雅刀、広末涼子、妻夫木聡、堤真一、人気と実力のともなった有名俳優がズラリ。監督は第33回モントリオール世界映画祭ワールド・コンペティション部門にて、本作で最優秀監督賞を受賞した根岸吉太郎。太宰本人を彷彿とさせる放蕩者の小説家と、彼を支える健気な妻を軸に、愛憎のドラマをしっとりと描く。戦後間もない昭和20年代の日本を舞台に、男と女の普遍的な成り行きを示す、大人のための恋愛譚である。
大酒飲みで金と女にだらしない小説家、大谷の借金のカタに、妻の佐知は中野の居酒屋で働くことに。器量と気立ての良さで店の人気者となった佐知は、辛気臭く家に引きこもっていた時とは見違えるほど垢抜けて、大谷が嫉妬して疑うほど美しくなっていく。そんな佐知に、大谷のファンであった青年・岡田も、佐知の初恋の人だった弁護士の辻も強く惹かれていく。そして大谷は、愛人の秋子とともに失踪する。
大人なら誰でも思い当たるような恋愛沙汰が、しみじみと共感を呼ぶ作品。男性が夢に描くような慈悲深く頼りになる賢妻の佐知、女性が惑わされがちな3タイプの魅力的な男たち。純粋なニュアンスで映し出されている男女のさまざまな成り行きは、視点を変えればかなり即物的で今も昔も世界中で変わらずにあるお決まりの関係でもある。その生々しさが泥臭くなくすっきりと表現されているところに、監督の力量を感じる。
出演者が役柄にとてもよくハマッていることも、本作の魅力のひとつ。たおやかな風情でありながら、現実を生き抜くたくましさをもつ佐知を、松たか子が繊細に表現。その演技はモントリオール世界映画祭でも高く評価されたとのこと。身勝手で純粋でナルシスト、才能ある破滅型の大谷は浅野が、
原作『ヴィヨンの妻』はシビアな実社会を生き抜く妻の姿がさばけていて、サラッと読めるとても短い小説。一方、佐和と3人の男たち、大谷と女たち、大谷夫妻と居酒屋の中年夫婦、とさまざまな関係性や感情の機微をしっとりと描くこの映画は、原作とは少々趣を異にする。弁護士の辻は映画オリジナルの人物で、岡田と名付けられた青年の性格や行動はまったく違うし、秋ちゃんも年増ではない。映画には『思ひ出』『灯篭』『姥捨』『きりぎりす』『桜桃』など数々の太宰作品のエッセンスや、作家本人のエピソードが盛り込まれ、太宰ファンにはトリビア的に楽しめる仕上がりだ。そして名文句もしばしば登場する。“タンポポの花一輪の信頼が欲しくて、チサの葉いちまいのなぐさめが欲しくて、一生を棒に振った”短編『二十世紀旗手』より)
それにしても、本作でオリジナルに綴られる大谷と佐知の出会いの純真さときたら。とてもロマンティックでハーレクインロマンスばりの運命的なものだ。そんな瞬間を共有してしまったら、どんなにつらくひどいことがあってもこの瞬間を思い出すだけで帳消しになってしまうかもしれない。佐知のキレイごとじゃない強さ、大谷の才能やプライドに裏づけされた厄介な思想と弱さ。酸いも甘いも知った大人の事情が満載の話でありながら、男女の純粋な絆を浮き彫りにする、味わい深い作品である。
公開 | 2009年10月10日公開 全国東宝系にてロードショー |
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制作年/制作国 | 2009年 日本 |
上映時間 | 1:54 |
配給 | 東宝 |
監督 | ニック・カサヴェテス |
監督 | 根岸吉太郎 |
脚本 | 田中陽造 |
原作 | 太宰 治 |
出演 | 松たか子 浅野忠信 室井滋 伊武雅刀 広末涼子 妻夫木聡 堤真一 |
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