パイレーツ・ロック

54の名曲で一気に60’Sワールドへ!
反骨とネバーギブアップというロック魂を
痛快な群像劇に仕上げたロック・ムービー

  • 2009/10/23
  • イベント
  • シネマ
パイレーツ・ロック© 2009 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.

ヌケ感の気持ちいいザ・キンクス「オール・オブ・ザ・ナイト」の乾いたギターから始まる痛快なロック・ムービー。世界中がロックに夢中だった1960年代初頭、ラジオは国営放送のBBCのみだったイギリスでは、ポピュラーミュージックの放送は1日に45分だけと制限され、国民の約半分はロックを24時間流し続ける海賊ラジオのリスナーだった――。60’Sにイギリスで実際にあった現象をもとに、当時、海賊ラジオを愛するいちリスナーだった『ラブ・アクチュアリー』のリチャード・カーティスが監督・脚本・製作総指揮を手がけて映画化。出演はオスカー俳優のフィリップ・シーモア・ホフマン、ベテランのビル・ナイ、個性派のリス・エヴァンス、演技派のケネス・ブラナー、コメディ俳優のニック・フロスト、イギリスの若手俳優トム・スターリッジ。ロックに酔い、浸り、踊り、ロックを武器に権力に反旗を翻す。誰もが聴いたことのあるヒットナンバーにのせて、海賊ラジオのヤバイDJたちと1人の少年の友情や恋、何よりも反骨とネバーギブアップというロック魂を描く、カラフルでハッピーな60’Sムービーである。

’66年のイギリス。海賊ラジオ局、ラジオ・ロックからは今日も人気DJザ・カウントらのメッセージとロックが流れ、リスナーたちが熱中している。「ポピュラーミュージックの放送は1日に45分だけ」というイギリスの制度にしばられないために海岸から離れて洋上から放送しているラジオ・ロックの船に、ひとりの少年が乗り込んでくる。ドラッグと喫煙で男子校を退学になった18歳のカールは、自分の名付け親でラジオ・ロックの経営者であるクエンティンのもとへ預けられ、船で暮らすことに。更正するには最悪の環境、自堕落に浸るには最高の場所である船の生活に、カールはあっさり順応。DJたちとともにロック漬けのまったりライフを楽しむ中、イギリス政府が海賊ラジオ撲滅に向けて不穏な動きを見せ始める。

レイチェル・マクアダムス、エリック・バナ

カール少年の成長と出生のナゾ、ロックを愛するDJたちの大人気ない友情や恋愛トラブル、海賊ラジオv.s.イギリス政府の構図など、さまざまなことがカーティス監督お得意の群像劇で描かれている本作。音楽好きには申し分なく楽しめて、人物のキャラも物語の展開もよく描かれているので映画好きにもおすすめ、という良作だ。

俺様DJザ・カウント役はホフマンが不敵に好演。近日公開の『脳内ニューヨーク』で彼が演じている、中年のさえないダメ男ぶりと思わず比べて「さすが!」の一言。イギリスの伝説的DJギャヴィン役をエヴァンスが、デブでもなぜかモテるデイヴ役をフロストが濃ゆく表現。ラジオ・ロック最高齢のクウェンティン役はビル・ナイがいい味をだしている。女性経験ゼロの奥手なカール少年を演じたスターリッジは、錚々たる俳優たちとの撮影に、カールさながら畏敬の念を抱いたとのこと。初々しい感じがよくでている。ブラナーは海賊ラジオを敵対視する大臣ドルマンディを、あえて大げさにほんのちょっとユーモラスに表現。ある台詞では、まるでDJのトークのように派手な抑揚をつけて流れるように言ったりする、その遊び心も楽しい。

船のシーンの撮影時は港から海へ毎日5週間、実際に本物の船ティモール・チャレンジャー号で出帆して、イギリスのドーセット州、ポートランド港の海上に停泊。船には毎回、撮影スタッフと俳優ら140人もの人々が乗り込み、“ちょっとした村みたい”な感覚で撮影されたそう。そのファミリー的な雰囲気は、劇中にもいい具合で反映されている。

パイレーツ・ロック

今も昔も、音楽好きが集えばいつだって似たようなノリになる。時代は違えど、「そうそう、盛り上がったよね〜」と、思わずありし日に心がヒュッと飛んでいったりも。本作の公式HPにアクセスすると“ラジオ・ロック”がオンエア。名曲をDJのつなぎとともに数曲のメドレーで聴かせてくれるところも好い! ウィルソン・ピケットの名曲「ダンス天国」も選曲され、高揚感ある映画の気分とテンションがそのままいい感じに表現されている。’66年が舞台でありながら、劇中歌54曲のうちいくつかは’68年の曲なども含まれていることは、メロディや物語との相性重視の選曲であろうことでご容赦を。なにしろエンディングには気だるいハスキーヴォイスがとてもいい、現代の女性ヴォーカリストであるダフィーがロレイン・エリソンの「ステイ・ウィズ・ミー」をカヴァー、エンドロールでは’83年のデヴィッド・ボウイのヒット曲「レッツ・ダンス」にあわせて出演者たちがダンスをキメる、というオマケ付きで、最後までやってくれる。カラフルなロックと60’Sファッションとともに気分がアガる、明るくタフな物語。よく晴れた秋空のようにスカッと気持ちいい後味のロック・ムービーである。

作品データ

パイレーツ・ロック
公開 2009年10月24日公開
TOHOシネマズ 六本木ヒルズほか全国ロードショー
制作年/制作国 2009年 イギリス
上映時間 2:15
配給 東宝東和
監督・脚本・製作総指揮 リチャード・カーティス
出演 フィリップ・シーモア・ホフマン
ビル・ナイ
リス・エヴァンス
ケネス・ブラナー
ニック・フロスト
トム・スターリッジ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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