パブリック・エネミーズ

世界大恐慌時代の’33〜’34年のアメリカ
鮮やかな手口で銀行強盗と脱獄を繰り返し、
義賊として支持された男の愛と美学、逃亡劇を描く

  • 2009/12/11
  • イベント
  • シネマ
パブリック・エネミーズ© 2009 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.

世界大恐慌の只中にあった’33〜’34年のアメリカ。FBIで初めて“社会の敵No.1 (Public Enemy No.1)”に指名された実在の犯罪者でありながら、民間人に広く支持された伝説的な銀行強盗ジョン・ハーバート・デリンジャーとFBIの対立を描く。出演はコメディからシリアスまで幅広く演じる魅力的な俳優ジョニー・デップ、『エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜』でオスカーを獲得したフランス人女優マリオン・コティヤール、新バットマンシリーズほかストイックな役がよく似合うクリスチャン・ベイル。原作はブライアン・バロウが執筆した同名のノンフィクション、監督・共同脚本・製作は、男っぽい人間ドラマや実話ベースの映画作りに定評のあるマイケル・マン。恋人を愛し、独自の美学を貫いた男の生き様をクールに描く、ハードボイルドな物語である。

世界恐慌時代に利益を独占する銀行から金を強奪し、逮捕されても鮮やかに脱獄するジョン・デリンジャー。ある日クラブでクローク係をしている女性ビリー・フレシェットと出会い、情熱的に口説いて付き合うように。ジョンが仲間たちと強盗をしながら追っ手を逃れ、ジョンとビリーが幸福を分かち合う中、FBI捜査官のメルヴィン・パーヴィスはじりじりとジョンたちに迫りつつあった。

マリオン・コティヤール、ジョニー・デップ

盗むのは銀行の金のみで銀行内にいる客の金には手をつけない、女性の人質の前で下品な言葉は使わない。強盗なのに紳士的でカリスマ性があるデリンジャーの特徴的なキャラクターと根強い人気から、彼のドラマは何度も繰り返し映画化されているテーマのひとつ。実はデップが子供時代を過ごした故郷の場所はデリンジャーと同じインディアナ州で、デップは“笑い話”としながらも子供の頃からデリンジャーに夢中だったとのこと。「デリンジャーには妥協が一切ない。親戚のような感覚で同じ血を感じるし、義理の父や祖父をすごく思い出すよ。男が真の男だった時代に生きた、男としての彼の存在に惹かれたんだ」と語っている。

デリンジャーに思い入れのあるデップは、いつもに増して役を作りこんで好演。検察官の肩に腕を乗せて記者会見をするシーン、ニヤリと不敵な笑みをたたえたアップのショットなど、今に伝わるデリンジャーの有名な写真をきっちり再現。先日、アメリカの雑誌『ピープル』にて「2009年の最もセクシーな男性」に選ばれたデップに、独自の美学を打ち出すダンディなデリンジャー役はうってつけだ。また、「役へののめりこみように心から感動した。一緒にリングにあがる相手として、大のお気に入りだね」とデップに言わしめたのは、ジョンの気丈な恋人ビリーを演じたコティヤール。ベイルは内に葛藤を抱えるFBI捜査官メルヴィン役をシリアスに表現している。

クリスチャン・ベイル

撮影では、’34年3月にデリンジャーが脱獄したインディアナ州クラウン・ポイントのレイク群刑務所や、同年4月に激しい銃撃戦の舞台となったウィスコンシン州北部のリトル・ボヘミア・ロッジ、デリンジャーが最後に訪れた映画館のバイオグラフ・シアターなど、事件が実際に起きた場所で撮影。建物や衣裳など’30年代のアメリカが細部まで再現されている。事件を目撃して体感しているかのようなリアリティは、マン監督の狙い通りとのこと。’33年5月に仮釈放となり、銀行強盗と脱獄を繰り返して’34年7月に死亡したデリンジャーについて、「わずか14ヶ月しかもたなかったけど、デリンジャーはおそらくアメリカの歴史上最高の銀行強盗だと思う」とマン監督はコメントしている。デリンジャーの人気ぶりは、彼が死亡した際の尋常じゃない逸話からも伝わってくる。死亡現場の血だまりにハンカチを浸して血を吸い取った人々がいたり、デリンジャーの遺体を見るべく死体保管所に何千人もの行列ができたり、民間人も警察関係者もデリンジャーの遺品を欲しがったほどだったという。そしてこうして数十年を経て映画化され、大衆を代表するアイコンとして彼は今も人々に親しまれている。

マリオン・コティヤール

「人は来た道ばかりを気にするが、どこへ向かうかが大切だ」というデリンジャーの台詞に、普遍的なメッセージを感じる本作。そしてクライマックスの後、あるひとつのエピソードがさらりと語られる。それは非現実的な内容でありながら、「キザでカッコつけのデリンジャーならやりかねない」という思いもわき、誰もが知っている結末に妙味が感じられる粋なエンディングだ。不況が続き社会情勢が不安定である今、大恐慌時代を刹那的に駆け抜けた男の存在に、あなたは何を思うだろうか。

作品データ

パブリック・エネミーズ
公開 2009年12月12日公開
TOHOシネマズ スカラ座ほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2009年 アメリカ
上映時間 2:21
配給 東宝東和
監督・共同脚本・製作 マイケル・マン
脚本 ロナン・ベネット
アン・ビダーマン
原作 ブライアン・バロウ
出演 ジョニー・デップ
クリスチャン・ベイル
マリオン・コティヤール
ビリー・クラダップ
スティーヴン・ドーフ
スティーヴン・ラング
ジェイソン・クラーク
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
XInstagram

記載内容は取材もしくは更新時の情報によるものです。商品の価格や取扱い・営業時間の変更等がございます。