ゴールデンスランバー

伊坂幸太郎の小説を中村義洋監督が映画化
キレのいいアクションあり泣かせる人情話あり、
最後の最後まで魅せる和製エンターテインメント

  • 2010/01/22
  • イベント
  • シネマ
ゴールデンスランバー© 2010「ゴールデンスランバー」製作委員会

’07年の『アヒルと鴨のコインロッカー』、’09年の『フィッシュストーリー』を手がけた中村義洋監督が、伊坂幸太郎のベストセラーを3度目の映画化。出演は主演作が続いている堺 雅人をはじめ、竹内結子、吉岡秀隆、劇団ひとり、香川照之、柄本 明、濱田 岳、大森南朋、貫地谷しほりと有名俳優たちがズラリ。首相暗殺の犯人に仕立て上げられた平凡な男・青柳の逃亡劇と、彼の関係者の間で展開していく人間ドラマを味わい深く描く。「ハリウッド的なエンターテインメントを目指した」という伊坂幸太郎の意図をしっかりと受け継ぎ、クライマックスで痛快にカマしてくれるスリリングな作品である。

仙台市内で宅配ドライバーをしている平凡な男・青柳は、大学時代の友人・森田と再会。青柳がうたた寝から目覚めると、すぐ近くで野党初の首相の暗殺事件が起こる。「とにかく逃げろ」という森田の声に押されるようにわけもわからず走り出すと、警官から発砲され執拗に追跡される。TVでは身に覚えのない証拠やVTRが大々的に報道され、青柳は首相暗殺犯に仕立て上げられていた。

境 雅人

モダンなアクションありホロリとさせる人情話あり、クスッと笑えるユーモアあり、最初から最後までテンポよく惹きつけていくミステリー。原作の魅力を最大限に生かしつつ、映画としてヴィジュアルやサウンドでメリハリを効かせた演出に中村監督のセンスと力量を感じる。原作は’07年に発表され、’08年に本屋大賞と山本周五郎賞を受賞した伊坂幸太郎の同名の人気小説。伊坂氏はこの映画について、「好きな場面を喋り出したらキリがなくなってしまうくらいで、僕はとても満足です」と語っている。

堺 雅人が演じる青柳役はとても人間臭く、観客を自然と共感に巻き込んでいくキャラクター。「助けたくなっちゃう人」という監督のコメントに大いに納得。竹内結子は自分の信じるように意志を貫く晴子を清々しく演じ、愛娘との会話が絶妙。大学時代の友人役で吉岡秀隆と劇団ひとりがいい味を醸している。お役目一途な警察官役に香川照之、“裏稼業の人間”を名乗るおやじに柄本 明、晴子の夫に大森南朋、アイドル役に貫地谷しほりと脇も充実のメンバーが固めている。個人的にインパクトを感じたのは、何をしでかすかわからない連続殺人犯キルオこと三浦役を演じた濱田 岳。伊坂原作×中村監督作品である本作と『アヒルと鴨〜』『フィッシュ〜』3作品すべてに出演していて、世界観によく合っている。原作と少し異なり、♪白ヤギさんからおてがみついた♪と三浦が歌い始めるくだりも好い。

そもそも「Golden Slumbers」は、1969年のビートルズ最後のレコーディング・アルバム『アビイ・ロード』に収録されているポール・マッカートニーの曲。この物語では4人にとって大学時代の思い出の曲として、印象的に取り上げられている。「ポールは……、バラバラになった皆をさ、もう一度つなぎ合わせたかったんだよ」と。また映画では、伊坂幸太郎とつながりの深いミュージシャン斉藤和義が、映画音楽を初めてトータルに担当。主題歌として「Golden Slumbers」をカヴァーし、演奏とプロデュースを自ら手がけたことも話題に。

竹内結子

仙台を舞台にした本作では、宮城県や仙台市の全面協力を受けてオール仙台ロケが実現したとのこと。首相暗殺シーンの凱旋パレードや仙台名物の花火大会などすべて現地ロケというリアルな視覚化は、原作ファンにとっても大いに魅力的なはずだ。

ゴールデンスランバー

「人間の最大の武器は、習慣と信頼だ」。決して勝てないからといって、絶対に負けるわけじゃない。“権力”に対するもやもやが少し残りはするものの、キレのある展開で観る側をスッキリさせてくれる本作。冒頭から中盤にかけていくつも張られていった伏線に、ひとつひとつビシビシとこたえていってくれるところがたまらなく気持ちいい。終盤、伊東四朗と木内みどりが演じる青柳の両親の様子もことさらに。人とのつながり、信じること。それさえあれば私たちはサバイバルできる。たとえどんなことがあったとしても。グレーな現代社会を生き抜くための心持ちをそっとしのばせてあるかのような、一流の和製エンターテインメントである。 

作品データ

ゴールデンスランバー
公開 2010年1月30日公開
全国東宝系にてロードショー
制作年/制作国 2010年 日本
上映時間 2:19
配給 東宝
監督・脚本 中村義洋
原作 伊坂幸太郎
脚本 林 民夫
鈴木謙一
音楽 斉藤和義
出演 堺 雅人
竹内結子
吉岡秀隆
劇団ひとり
香川照之
柄本 明
濱田 岳
渋川清彦
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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