桜田門外ノ変

大沢たかお主演×佐藤純彌監督
暗殺事件の背後にある人々の心理や生き様を
史実に基づいて描く、実直な人間ドラマ

  • 2010/10/01
  • イベント
  • シネマ
桜田門外ノ変© 2010 『桜田門外ノ変』製作委員会

歴史小説で知られる故・吉村昭が1990年に発表したノンフィクション『桜田門外ノ変』を映画化。出演は大沢たかお、柄本明、北大路欣也、伊武雅刀ほか錚々たる顔ぶれ。監督は『男たちの大和/YAMATO』の佐藤純彌。1860年に起きた井伊直弼の暗殺事件“桜田門外の変”を、襲撃側である水戸藩の浪士たちの視点から描く。衝撃的な事件の背後にある市井の人々の心理や生き様を追う、実直な人間ドラマである。

ペリーの黒船来襲から7年たった安政7年(1860年)、日本は開国か攘夷かで大きく揺れ動いていた。そんな折、開国を推し進める大老の井伊直弼が、尊王攘夷を旨とする水戸の浪士ら18名によって暗殺される。浪士たちが闘死、自刃、自首してゆく中、実行部隊の指揮をとったもと水戸藩士の関 鉄之介は追っ手を逃れ、同じ志をもつ支援者をさがして鳥取、京都、熊本をめぐるが……。

桜田門外ノ変

史実をもとに暗殺事件の背後を描く、決して楽しいだけの物語ではない本作。どちらかというと、映画が完成するまでの経緯が興味深い。この映画の企画は茨城県の市民団体が立ち上げ、これまでにない流れによって製作されたとのこと。以前からいろいろな映画やTVドラマのロケ地となり、フィルム・コミッション(作品の撮影に際し、ロケ地としての誘致や撮影の支援をする公的機関)の活動も積極的に行っていた茨城県では、「撮影隊を受け入れるだけでなく、自分たちでも発信していく必要があるのではないか。茨城県の地域振興や観光誘致につながる映画を、地元主導で作れないだろうか」という考えに至り、企画を選定。名所、旧跡への観光誘致につながる幕末の題材として、吉村昭の史実を綴った小説『桜田門外ノ変』を選出し、茨城県の市町村長すべてのバックアップにより映画化支援の会が発足。水戸市の千波湖畔に総工費2億5千万円で桜田門周辺を再現した巨大なオープンセットを建設し、映画の製作費を県内の支援者や団体から集め、“県民創生映画”と銘打って撮影が始められたのだそう。

地域活性や観光誘致がベースにあるため、映画には実際に訪れることのできる茨城の名所が多数登場。天保12年(1841年)に創設された旧水戸藩の藩校である弘道館、“日本三大公園”のひとつとして有名な偕楽園、名瀑として親しまれている袋田の滝など、映画の公式HPでもゆかりの地を紹介するMAPが充実。桜田門周辺を再現した巨大なオープンセットは、記念展示館として2011年3月31日まで有料で公開されている。

桜田門外ノ変

井伊直弼暗殺の指揮をとったもと水戸藩士、関 鉄之介役は、大沢たかおが静かな佇まいで表現。仲間が潔く散っていく中で生きながらえるリーダー、という共感を得にくい役どころでありながら、持ち前の魅力で人間味あるキャラクターとして演じている。水戸藩側で、暗殺計画を立案した金子役を柄本明、高橋役を生瀬勝久、野村役を西村雅彦、また攘夷派の徳川斉昭役に北大路欣也、井伊直弼役に伊武雅刀と演技派や大御所も。そして関の妻役に長谷川京子、息子役に加藤清史郎ほか、脇にも魅力的な俳優たちが配されている。

大沢たかお

さて、今年は秋から冬にかけて人気俳優が出演する時代劇が続々と公開。先日は5つの映画会社が共同で展開する“サムライ・シネマ キャンペーン”が発表された。当日は本作に主演する大沢たかお、『十三人の刺客』『最後の忠臣蔵』の役所広司、『雷桜』の岡田将生と蒼井優、『武士の家計簿』の堺雅人と仲間由紀恵が登壇。時代劇を観つけない若い世代が増えている中、魅力的なスタッフとキャストによる良質な作品を発表し、伝統的な邦画である時代劇が廃れずに継承されていく流れが意識されているのだろうか。時代劇は凛とした武士道や気風(きっぷ)のいい町人といった精神性、美しい着物や所作、伝統的な建築や和の空間などを伝える、日本人だからこそしっかりと作りこむことのできる大切なお家芸。次世代の観客に向けて現代風にアレンジされていくことが少しさびしい向きもあるかもしれないが、それもまた一興。これからの時代劇の新しい潮流に期待したい。

作品データ

桜田門外ノ変
公開 2010年10月16日公開
丸の内TOEIほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2010年 日本
上映時間 2:17
配給 東映
原作 吉村 昭
監督・脚本 佐藤純彌
脚本 江良至
出演 大沢たかお
長谷川京子
柄本明
生瀬勝久
渡辺裕之
加藤清史郎
西村雅彦
伊武雅刀
北大路欣也
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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