雷桜

岡田将生×蒼井優、初の時代劇で2度目の共演
心の病を患う武士の青年と山育ちの奔放な娘との
運命的な恋を描く、切なくもみずみずしい純愛物語

  • 2010/10/08
  • イベント
  • シネマ
雷桜© 2010「雷桜」製作委員会

岡田将生と蒼井優、実力派若手俳優の共演による時代劇。出演はほかに小出恵介、柄本 明、時任三郎ほか。監督は2003年の映画『ヴァイブレータ』、’09年の『余命1ヶ月の花嫁』の廣木隆一。心の病を抱える徳川将軍家の十七男と、山育ちの奔放な娘との運命的な出会いと顛末を描く、純愛ストーリーである

徳川将軍家の十七男である清水斉道は幼い頃に母を亡くし、心の病を患い孤独な日々を送っている。悪夢にうなされ続け、家臣に刃を向けるほどの斉道の乱心ぶりは、父である将軍・徳川秀斉からも疎まれていた。そんな折、斉道は家臣の瀬田助次郎の故郷、瀬田村の山にいるという天狗の話に興味をもち、静養をかねて瀬田村へと向かうことに。山の近くへさしかかると一緒に連れてきた鷹が飛び去り、斉道は鷹を追いかけ、供の者たちを振り切って山奥へと馬を駆け、青々とした広場を見つける。そこで一息ついていると、白馬とともに天狗のような面をつけた輩がやってくる。それは瀬田山で生まれ育った娘、雷(らい)だった。

ピュアな少年少女の恋と情熱を、みずみずしくしっとりと描く物語。若い世代や時代劇を観つけない人たちにも受け入れられやすい仕上がりだ。時代劇ということを意識させない演出でありつつも、身分の格差で自由な恋愛がままならないもどかしさ、通信や交通が未発達であるがゆえの不自由さ、現代ではありえない純情な感覚など、時代モノだからこその特性がラブストーリーによく活かされている。時代劇は今回が初となる廣木監督は、撮影現場でこう語ったとのこと。「時代劇を観るのは好きでしたが、自分で撮ることになるとは思いもよりませんでした。僕のところにお話がきたんだから、ラブストーリーを求められているんだろうと思いましたし、相手を思いやって我慢する恋愛は古くない。逆に今、そういう恋愛がアリなんじゃないか、と。人の感情は現代劇も時代劇も変わらない。“時代劇だから”という枠にはめるのはやめようと思って撮っています」。

蒼井 優

岡田と蒼井は’09年の『ホノカアボーイ』に次いで2度目の共演。前作では蒼井の出演がわずかだったものの、今回は撮影前の乗馬の練習から一緒だったため互いに打ち解け、仲良く過ごしていたとのこと。2人のピュアな雰囲気はよく合っていて、斉道と雷こと遊(ゆう)が惹かれあってゆく気持ちの流れが、自然に表現されている。ともに時代劇初挑戦の2人は馬術も殺陣も特訓し、劇中では立ち合いのシーンも。乗馬シーンでは2人乗りはもちろん、両手放しの乗馬や長距離の走りもすべて本人たちによるもので、吹き替えは一切ないそうだ。蒼井はいつものおっとりとした癒し系のイメージとは違う、野育ちの凛々しい娘役を爽やかに演じ、新たな一面を見せている。そして雷の育ての親、理右衛門役は時任三郎が寡黙に、斉道が子供の頃から仕える御用人の榎戸角之進役は柄本明がストイックに、斉道の忠実な家臣である瀬田助次郎役は小出恵介が健気に演じている。脇には坂東三津五郎、宮崎美子、ベンガル、大杉 漣、池畑慎之介らベテラン勢から、忍成修吾、高良健吾、柄本 佑ほか旬の若手も多数出演している。

山のシーンの多くは沖縄の森で撮影され、美しい自然は本作の見どころのひとつ。落雷でまっぷたつに裂けた銀杏の古木に桜が芽吹き巨樹となった本作の象徴“雷桜”は、高さ10〜11m、横12m、幹周り3mという立派な代物で、制作期間1ヶ月をかけて完成したとのこと。鮮やかな緑の中に堂々と立つその姿は幻想的で、若い恋人たちをやさしく見守っているかのようだ。ちなみに雷の愛馬である白馬、東雲(しののめ)の実名はマレーボで、クォーターホースという種類の馬とのこと。賢そうな面差しにがっちりとした安定感のある体格、穏やかでやさしい瞳が愛らしい。

岡田将生、蒼井 優

原作は宇江佐真理が’00年に発表し、時代小説でありながら多くの女性から支持されている『雷桜』。筆者は’95年に『幻の声』でオール讀物新人賞を受賞してデビューし、’00年に『深川恋物語』で吉川英治文学新人賞、’01年には『余寒の雪』で中山義秀文学賞を受賞。人情味あふれる時代小説で知られている人物だ。ちなみに読書家で知られる蒼井は、19歳の頃にすでに本作の原作を読みファンだったそうで、「今回映画化が決まったと聞いて、誰が雷を演じるんだろうと考えました。そうしたらお話をくださったのでびっくりしたのと同時に、大変な仕事をいただいたなあと感じました」とコメントしている。

岡田将生

わがままでヒステリー症、興奮してはふぅ…っと気絶する箱入りの姫に、純朴で逞しい野育ちの男が恋をして……、という古典的な王道パターンとは男女が逆転している物語。女性が颯爽と凛乎たる姿はなかなかに痛快で、男性の切ない表情というのも色っぽく。先だって公開した“男女逆転”『大奥』とは物語のテイストはまったく違えど、キャラクターに対して同じような感覚をもったことを思い出した。

“時代劇”というよりもある種、クラシックでファンタジックなラブストーリーである本作。時世ゆえの詮無い展開は多くとも、個人的に「こうなればいいのに」というツボはほぼおさえられていたので満足度は高かった。徐々に寒さが増してくるこの季節、人肌のぬくもりのある純愛物語はいかがだろう。

作品データ

雷桜
公開 2010年10月22日公開
TOHOシネマズ スカラ座ほか全国東宝系にてロードショー
制作年/制作国 2010年 日本
上映時間 2:13
配給 東宝
原作 宇江佐真理
監督 廣木隆一
脚本 田中幸子
加藤正人
出演 岡田将生
蒼井 優
小出恵介
柄本 明
時任三郎
宮崎美子
和田聰宏
須藤理彩
若葉竜也
忍成修吾
村上 淳
高良健吾
柄本 佑
大杉 漣
ベンガル
池畑慎之介
坂東三津五郎
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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