レオニー

巨匠イサム・ノグチを産んだアメリカ人女性が
日本とアメリカで過ごした波乱の半生を描く
人物伝をベースに映画化されたヒューマンドラマ

  • 2010/10/29
  • イベント
  • シネマ
レオニー© レオニーパートナーズ合同会社

日系アメリカ人の彫刻家イサム・ノグチの実母、レオニー・ギルモアの半生を描く日米合作映画。出演はアメリカとイギリスで活躍する女優エミリー・モーティマー、日本からは中村獅童、原田美枝子、吉行和子、竹下景子、中村雅俊、柏原崇ほか。監督は1998年に映画『ユキエ』、2002年に『折り梅』を手がけた松井久子。強い信念をもって激動の時代を生き抜いた、ひとりの女性の物語である。

1901年のNY。フィラデルフィアの名門女子大学ブリンマー大学を卒業したレオニーは、新聞広告をきっかけに編集者として日本人の青年詩人ヨネ・ノグチ(野口米次郎)と仕事を始める。ヨネはレオニーとの共同作業で詩や小説を英語で発表し、米英の文壇で注目の存在に。そして2人は関係をもちレオニーが妊娠を告げると、ヨネは彼女を拒絶して単身で日本へ帰国。レオニーは母の暮らすカリフォルニアに移住して男児を出産する。一方、レオニーの男児出産を知ったヨネは、息子とともにレオニー日本へ呼び寄せるべく手紙を送ってくるように。アメリカでは日本人との混血である息子への人種差別もあったことから、レオニーは1906年に3歳の息子とともに日本へと渡る。

中村獅童、エミリー・モーティマー

自らの情熱と堅固な性分により、激動の時代を生きた女性レオニーの物語。当時はシングルマザーという言葉もなく未婚の母は社会の弱者であり、男尊女卑の日本では異人の妾という立場。しかし彼女は自らの知性と決断に誇りをもち、凛として生きてゆく。子供たちを愛しながらも“思うままに生きる”レオニーは家族や周囲の人々にとって大きな負担になることもあり、すばらしい母親像として美化して描かれているわけではない。良くも悪くも我が道をゆく潔さ、時には独善的になりかねないほどの手厳しい振る舞いこそが、芸術家イサム・ノグチを鍛えて大きく開花させるきっかけになったのかもと驚かされる。劇中にはブリンマー大学の学生だった津田塾大学の創設者、津田梅子や、小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーンの夫人である小泉セツも登場し、女性の社会的地位が確立されていない時代に自分らしく生きた日本人女性たちが紹介されていることも興味深い。

原作はアメリカ在住のノンフィクション作家、ドウス昌代が2000年に発表した『イサム・ノグチ〜宿命の越境者』。松井監督が原作を映画化したいと切望し、日米を何度も行き来して7年かけて作り上げたとのこと。脚本は監督が納得のいくまで練り上げられ、3人の脚本家が関わり推敲に推敲を重ねて14稿で完成。プロデューサーにはハリウッドのインディペンデント作品を手がけるアショク・アムリトラジ、撮影は映画『エディット・ピアフ〜愛の賛歌〜』などフランスを拠点に活動する永田鉄男、衣装は黒澤和子と、ベテランのスタッフが参加。日米合作映画ということもあり製作開始までには紆余曲折を経たそうで、監督の製作日誌にはさまざまな問題を妥協せずあきらめず、ねばり腰で心血を注いだ経緯が記されている。

エミリー・モーティマー

知的で芯のあるレオニー役はモーティマーが自然に表現。素朴な雰囲気でありながら鋼鉄の意志をもつ独特の人となりがよく伝わってくる。詩人のヨネこと野口米次郎役は中村獅童が、当時の日本人男性として女性を見下す居丈高なキャラクターをストレートに演じている。津田梅子役に原田美枝子、家政婦のキク役に吉行和子、小泉セツ役に竹下景子、レオニーが日本で英語を教える生徒として中村雅俊、柏原崇が演じ、脇も実力派の俳優で固められている。また彫刻家の役として、舞踊家の勅使川原三郎がそのニュアンスを醸しだしている。撮影は日米の13都市で行われ、NY、カリフォルニア、東京、茅ヶ崎……と、移住先の風景や環境もよく演出されている。

エミリー・モーティマー

数々の彫刻作品や照明シリーズ“AKARI”をはじめ、多くの作品を遺した芸術家イサム・ノグチ。彼の母である1人の女性の知られざる生き様とともに、巨匠の人生はこうして始まった、という感慨も伝わってくる本作。自然環境から政治や経済に至るまで、すべてが心もとない時世の生き方を模索する現代人に向けて。約100年前の厳しい時勢に自分を貫いて生きた女性の半生に、あなたは何を感じるだろう。

作品データ

レオニー
公開 2010年11月20日公開
角川シネマ新宿ほか全国ロードショー
制作年/制作国 2010年 日本、アメリカ
上映時間 2:12
配給 角川映画
製作・脚本・監督 松井久子
原案 ドウス昌代
出演 エミリー・モーティマー
中村獅童
原田美枝子
竹下景子
吉行和子
中村雅俊(友情出演)
柏原 崇
大地康雄
勅使川原三郎
メアリー・ケイ・プレイス
クリスティーナ・ヘンドリックス
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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