アンストッパブル

トニー・スコット監督×デンゼル・ワシントン
アメリカで実際に起きた無人列車の暴走事件を描く
臨場感あふれるスリラーにして熱い人間ドラマ

  • 2011/01/07
  • イベント
  • シネマ
アンストッパブル© 2010 TWENTIETH CENTURY FOX

2001年5月15日、アメリカ北東部。危険物質を大量に搭載した47両編成の無人の貨物列車が、約100kmの距離を推定時速100km以上で暴走。CNNがヘリコプターによる生中継で列車を追跡し、全米が固唾を飲んでその行方を見守った――。この実際に起きた列車の暴走事件をもとに描くパニック・ムービー。監督はリドリー・スコットの弟で、’86年の『トップガン』をはじめ数々の作品で知られるトニー・スコット。出演はオスカー®俳優のデンゼル・ワシントン、’09年の『スター・トレック』でスターの仲間入りをしたクリス・パインほか。スリリングなハラハラドキドキのみならず、世代間ギャップのある男2人の対立と相互理解、人生に問題を抱える2人が一転してヒーローとなるまでの心情をしっかりと描く。スリラーでありながら人間ドラマとしても、痛快な作品である。

整備員のミスによって、ペンシルバニア州の操車場から最新鋭の貨物列車777号が無人で走行。39両編成で全長約800mもの777号には危険な化学薬品が大量に搭載され、人口密集地域で脱線やクラッシュが起きれば、大勢を巻き込む最悪の事故を引き起こすことが判明。鉄道会社と警察はさまざまな手段によって安全地域での停止や脱線を試みるが、自らの重量と自動運転によってどんどんスピードをあげてゆく777号を止めることができない。その頃、同じ路線で旧式機関車1206号を走行していたベテラン機関士フランクは事態を知り、初めてコンビを組んだ新人の車掌ウィルとともに777号を追跡。家族をはじめ大勢の人々を守るべく暴走列車を止めようと決意し、2人は命懸けの方法に打って出る。

クリス・パイン

スコット監督×ワシントンのタッグによる’09年の『サブウェイ123激突』に続き、またまた列車がらみの映画、と思いきや、予想以上に観客を引き込む力のある作品。本作はあくまでも事実をベースに映画として新たに製作されているわけだが、柵も踏切もない線路を列車が幼い子供の鼻先をかすめて暴走し、線路に立ち往生したトレーラーを大破し、フランクとウィルによる決死の手段に至るまで、「こんな恐ろしいことが実際に起きたなんて!」と観る側をゾッとさせるような、手に汗握る、背筋がヒヤリとする感覚がよく描かれている。本作であくまでもリアルな迫力を追求したスコット監督は、CGをなるべく使わずに撮影。そのため高速で走る列車同士がギリギリですれ違ったり、俳優たちが際どいスタントに挑む緊迫感あふれるシーンも満載。ガチンコの臨場感や緊張感がひしひしと伝わってくる。また2人の男が相容れない状態から次第に打ち解けていく心情もしっかりと描き、気合と根性で誰もがヒーローになれる、というわかりやすい展開が爽快だ。

クリス・パイン

スコット監督とは’95年の『クリムゾン・タイド』、’04年の『マイ・ボディガード』、’06年の『デジャヴ』、’09年の『サブウェイ123激突』に続いて5作目のタッグとなるワシントン。家族思いで熟練の技術をもつベテラン機関士のフランク役を、確かな表現力で演じている。列車の上を走るシーンは本物の列車の屋根をワシントン本人が走り、スタント・コーディネイターも「CGIを多用する現代では珍しいほどリアルなスタント」と言うほどのアクションを体現。また家庭問題に苦悩する新人車掌のウィル役は、パインが好演。危ハードなアクションやワシントンとの掛け合いで、物語にアクセントを効かせている。また女性ながら列車司令室を統括する操車場長のコニー役は、ロザリオ・ドーソンがキリリと演じている。

クリス・パイン

ロケットさながらに暴走する777号に、旧式機関車の1206号で挑み、鉄道会社のトップによる机上の空論よりも現場を知るスタッフの判断が冴え、家庭に問題を抱えるウィルと若手の台頭する職場で肩身が狭く感じていたベテランのフランクが一躍英雄になる。全編において、弱いとされる側が上位のものに智恵と技術と勇気をもって立ち向かう、という展開が小気味いい本作。ありえないほど劇的な実際の事例を用いて“あきらめずにやればできる”という成功パターンを見せているようにも。経済不安に疲弊し、社会にもまれて弱り気味の現代人へ、思いやりの喝をあざやかに入れるかのような。高く晴れ渡る冬空のように、スッキリと楽しめる作品である。

作品データ

アンストッパブル
公開 2011年1月7日公開
TOHOシネマズ 日劇ほか全国ロードショー
制作年/制作国 2010年 アメリカ
上映時間 1:39
配給 20世紀フォックス映画
原題 Unstoppable
監督・製作 トニー・スコット
脚本 マーク・ボンバック
出演 デンゼル・ワシントン
クリス・パイン
ロザリオ・ドーソン
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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