ザ・タウン

犯罪が生業の青年は新しい人生を選び取れるのか?
ベン・アフレック監督・共同脚本・主演にて
全米一強盗の多い街を描くシビアな人間ドラマ

  • 2011/01/28
  • イベント
  • シネマ
ザ・タウン© 2011 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND LEGENDARY PICTURES

ベン・アフレックの監督・共同脚本2作目にして、その力強い内容が高く評価されている人間ドラマ。出演はアフレック、’08年の映画『ハート・ロッカー』のジェレミー・レナー、’08年の『それでも恋するバルセロナ』のレベッカ・ホール、人気TVシリーズ『ゴシップガール』のブレイク・ライブリー、’08〜’10年まで3年連続でエミー賞(ドラマシリーズ部門作品賞)を受賞しているTVシリーズ『マッド・メン』のジョン・ハムほか。暴力とスリルで目を引くただのダーティなギャング映画ではなく、地に足のついた愛と人生を命がけで選び取ろうとする男のビターな物語である。

全米で一番強盗犯罪の多い街、ボストン郊外のチャールズタウン。この“タウン”と呼ばれるエリアで生まれ育ったダグは、プロの銀行強盗団のリーダーであり、今日も覆面をして4人で街の銀行に押し入った。いつも通りのチームワークと迅速な動きで金を奪うも、無音警報の作動に焦った仲間のジェムが、女性支店長のクレアに目隠しをして人質にとる。その後、ダグらは逃走に成功したためクレアを解放。しかしその後、逮捕を恐れるジェムがクレアを殺すと言い出し、なるべく人を傷つけない考えのダグはFBIや警察に証言をするかどうかクレアを見張ると申し出る。強盗に誘拐されたショックが癒えずに脅えるクレアは、ひょんなことからダグと知り合い、2人は互いに惹かれあってゆく。

“家業”である銀行強盗を継ぐしか術のない青年たち、血よりも濃い絆をもち、決して裏切ることのない仲間たち、銀行強盗と人質という特殊な状況で恋に落ちる男と女。常識や道理でははかりしれない、生身の感情が描かれている作品だ。監督、共同脚本、主演のアフレックは、本作について語る。「表面的には強盗を描いたストーリーでありながら、その核心は人間の葛藤にある。人生を変えたいと強く思いながらも、望まない場所から抜け出せないでいる男の話であり、僕はそこに惹かれた。人の生き方が育った環境にどれだけ根づいているのか、親の負の遺産を背負わされた子について描いたストーリーなんだ。犯罪を描く側面には共感できない人たちも、その点では自分を重ね合わせることができるんじゃないかな」。

ベン・アフレック

原作は2004年に出版されたアメリカの作家チャック・ホーガンの小説『強盗こそ、われらが宿命(原題:Prince of Thieves)』。原題は直訳すると“盗賊のプリンス”で、英語圏の国々ではかのロビン・フッドの副題として知られている言葉というから皮肉だ。著者は3作目のこの小説で、国際推理作家協会の北アメリカ支部が主宰するミステリー文学賞、ハメット賞を受賞。そして製作のグレアム・キングが映画化を進め、共同脚本のピーター・クレイグが書いた初期の脚本をアフレックに送り、彼が監督のオファーを受けたそうだ。

ブレイク・ライブリー、ジョン・ハム

ダグ役のアフレックは、強盗団のまとめ役であり、人質にした女性に恋をする男の苦悩と選択を表現。アフレックは監督、共同脚本、主演をつとめあげ、この作品で改めて評価されている。アフレックは1997年、ともに無名で子供の頃からの友人だったマット・デイモンとの共同脚本による映画『グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち』を発表。この作品が第70回アカデミー賞で脚本賞と助演男優賞(ロビン・ウィリアムズ)を獲得し、有望な新人として大きな注目を受ける。デイモンが一流の俳優として認められていく中、アフレックはセクシーなイケメン俳優としてそれなりに活躍していくものの、『デアデビル』『ジーリ』『ペイチェック/消された記憶』の3作品で’03年の第24回ゴールデンラズベリー賞(最低映画賞)の最低主演男優賞を受賞し、シンガーで女優のジェニファー・ロペスとのスキャンダルばかりが話題に。その後J.loと婚約破棄、チャーミングな女優ジェニファー・ガーナーと結婚して2人の愛娘が誕生。’07年には監督・共同脚本・製作をつとめた映画『ゴーン・ベイビー・ゴーン』(日本劇場未公開)が認められ、本作で底力を打ち出して広く認められた――という経緯がある。最悪の時期から強い意志で這い上がったところに、主人公のダグと重なるところも。ジェム役のレニーは、2011年の1月25日に発表された第83回アカデミー賞のノミネーションで助演男優賞に選出。残虐で悪びれずに犯罪をおかすジェムの性質に、家族や仲間を大事にする人情を滲ませ、憎みきれない男として丁寧に演じている。クレア役にはホールが落ち着いたやさしさと誠実さを与え、レニーの妹でダグを慕うクリスタ役はライブリーがやるせない感情を伝え、FBI捜査官のフローリー役はハムが厳格な昔気質の男を演じている。また本作には強盗グループのデズ役を演じたオーウェン・バークのように、チャールズタウンで行われた出演者の公募で選ばれ、実際の内部事情に通じている出演者も多数。過去に前科のある数人の地元住民が警官役をつとめ、エキストラ出演した本物の警官たちと共演したというエピソードも。アフレックら製作者たちは彼らの意見やアドバイスを積極的に取り入れ、“タウン”のよりリアルな現状をスクリーンに映し出すことができたという。

レベッカ・ホール、ベン・アフレック

ただ犯罪の善悪を問うのではなく、ギャングの強奪シーンや仲間内の抗争を描くだけでもなく。地元で仲間たちとつるむ暮らしから、自らの強い意志で新しい世界を目指す男の葛藤と愛を描く本作。物語の要素からすると、実は『グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち』を彷彿とさせる点も多い。前回はデイモンの旅立ちで、今回はアフレックの旅立ちだ。この映画は罪や罰についてなど気にかかる点を残しつつも、今の時代にふさわしい内容といえる。どれほど酷い環境で生まれ育ち、犯罪者になるほか選択肢が一切なかったとしても、良い出会いを得て本気で取り組めば、誰もが新しい人生を手に入れることができる、ということ。現代の閉塞感に慣れきっている私たちに、この真摯なメッセージが熱く響くのである。

作品データ

ザ・タウン
公開 2011年2月5日公開
丸の内ルーブルほか全国ロードショー
制作年/制作国 2010年 アメリカ
上映時間 2:05
配給 ワーナー・ブラザース映画
原題 THE TOWN
監督・脚本 ベン・アフレック
脚本 ピーター・クレイグ
アーロン・ストッカード
出演 ベン・アフレック
レベッカ・ホール
ジョン・ハム
ジェレミー・レナー
ブレイク・ライブリー
タイタス・ウェリバー
ピート・ポスルスウェイト
クリス・クーパー
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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