ザ・ファイター

不遇の時を乗り越え、周囲と力をあわせて
勝利を獲得した青年ボクサーの実話を映画化
家族の軋轢と絆を生々しく描く、骨太な人間ドラマ

  • 2011/03/22
  • イベント
  • シネマ
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3月11日に発生した東日本大震災において、亡くなられた方々のご冥福を心よりお祈りいたします。被災された皆様に心よりお見舞いを申し上げるとともに、被災地の1日も早い復興を切に願っております。そして福島の第一原子力発電所の現場にて、懸命に作業をされている方々に深い感謝を捧げます。

いま、私たちが映画の記事をお届けすることにどんな意味があるのでしょうか。一生懸命考えています。いつものことがいつも通りにある、日常の感覚が、読んでくださる方々にとってわずかでも安心につながることができたら。そして「いつか観たいな」と思ってもらえるような、心の支えや気持ちの切り替えとなれるかもしれない作品を通じて、親しい人たちと心の結びつきを深めるきっかけとなることができたら。この思いとともに文章を書いています。

マーク・ウォールバーグ、クリスチャン・ベール

2011年の第83回アカデミー賞にて、助演男優賞と助演女優賞をW受賞した話題作。実在する不屈のボクサー、ミッキー・ウォードの実話に基づく物語である。出演は1997年の映画『ブギーナイツ』で知られるマーク・ウォールバーグ、本作でオスカーを受賞したクリスチャン・ベールとメリッサ・レオ、実力派女優として評価されているエイミー・アダムスほか。監督はウォールバーグとのタッグが’99年の『スリー・キングス』、’04年の『ハッカビーズ』に続き本作で3作目となるデヴィッド・O・ラッセル。どんなに追い詰められても最後まであきらめず、周囲と力をあわせて勝利を獲得した青年ボクサーの物語である。

アメリカ、マサチューセッツ州にある労働者の街ローウェル。アイルランド系アメリカ人の兄弟ボクサー、兄ディッキー・エクランドと父親違いの弟ミッキー・ウォードはちょっとした有名人だ。2人は性格もファイティングスタイルも正反対で、人を惹きつける社交的な性格で天才肌のボクサーだったディッキーは麻薬に溺れ、今は弟のトレーナーに。一方ボクシングのすべてをディッキーから学んだ弟ミッキーは生真面目でおとなしく、いい加減な兄や身勝手なマネージャーの母、大勢の姉妹たちの言いなりになっている。ある日、母と兄はファイティングマネー欲しさに相手を選ばずにミッキーの試合を組み、ミッキーは大怪我を負ってぶざまに惨敗。そんな頃、ミッキーはバーで働く気の強い美人シャーリーンと付き合いはじめ、ディッキーは窃盗の現行犯で逮捕され投獄される。

いわゆる挫折と栄光の物語。が、ただのスポ根ものではなく、家族との軋轢や絆を生々しく描いている。ある意味、ミッキーの異様に打たれ強く、こらえにこらえて爆発的に重いパンチを繰り出すファイティングスタイルは、理不尽な家族のもとで自然に育まれたかのよう。厳しい精神修行に長年さらされていたことを逆手に取り、自らの糧として成長していったあたり、教訓さえ感じさせる。きらびやかな話でなくとも心に沁みるのは、やはり実際にあったことだからだろう。歴史に名を刻む大物の偉業を称えるのではなく、労働者階級の市井の男が不遇の時を耐え、努力と根性でようやく流れをつかみ、成し得た、という事実。その経緯をじっくりと描く、汗と涙にまみれた人間臭さが、観る側にじわりと訴えかけてくる。

マーク・ウォールバーグ

ミッキー役は製作も兼ねるウォールバーグが熱演し、本人たちとコンタクトをとりながらボクシングのトレーニングをするなど3年の準備を重ね、プロボクサーさながらの姿を披露。兄ディッキー役を演じたベールは13kg減量し、髪の毛を抜いて歯並びを変え、薬物中毒の元プロボクサーを怪演。自己中心的でも憎まれないキャラクターを、鬼気迫る風貌で演じている。支配的な母親アリス役は、レオが高圧的に表現。その横暴なマネージャーぶりと息子の偏愛ぶりで強い印象を残している。ミッキーを公私でサポートするシャーリーン役はアダムスが、強い意志で恋人を支える女性をきっぱりと演じている。また本作には、実在する関係者たちが本人役で多数出演。ミッキーのトレーナーを務めた警官オキーフ、ミッキーの姉妹たちや実の叔父、そして伝説的ボクサーのシュガー・レイ・レナードも本人役で登場、というサプライズも。ミッキーの試合のシーンでは、対戦相手アルフォンソ・サンチェス役を演じた米ミドル級のトップランキング選手ミゲール・エスピノをはじめ、対戦相手役はボクシング経験のあるスタントマンたちが演じ、実戦的なシーンとなっている。

観ているとその白熱ぶりに、劇中でリングを囲む観客さながら、思わず手に汗を握る本作。世界レベルでは無名のボクサーが元世界王者に挑む、というチャレンジは多くの人に勇気を与えてくれるはずだ。この映画のエンドロールにはすでに現役を引退した本人たち、シャイなミッキーと陽気なディッキーの今の映像が少し映る。2人はとても嬉しそうだ。最後に本作について、ミッキー本人からのメッセージを。「この映画は、最悪の出来事が起こっても決してあきらめず、コツコツ努力をし続けること。愛する人たちの力になり、正しいことをすれば、良いことは必ず起こるということを伝えていると思う。僕はその生きた証人なんだよ」。

クリスチャン・ベール

作品データ

ザ・ファイター
公開 2011年3月26日公開
丸の内ピカデリーほか全国順次ロードショー
制作年/制作国 2010年 アメリカ
上映時間 1:56
配給 ギャガ
原題 THE FIGHTER
監督 デヴィッド・O・ラッセル
共同脚本 スコット・シルヴァー
共同脚本・製作総指揮 ポール・タマシー
エリック・ジョンソン
出演 マーク・ウォールバーグ(製作)
クリスチャン・ベール
エイミー・アダムス
メリッサ・レオ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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