イヴ・サンローラン

フランスを代表するデザイナー初の公式ドキュメンタリー
実際の映像と関係者へのインタビューに基づき
その孤独と成功、インスピレーションの源や愛を描く

  • 2011/04/15
  • イベント
  • シネマ
イヴ・サンローラン© 2010 LES FILMS DU LENDEMAIN - LES FILMS DE PIERRE - FRANCE 3 CINÉMA

2008年に72歳で他界した、20世紀を代表するフランスの天才デザイナー、イヴ・サンローラン。彼の半生を実際の映像と関係者へのインタビューで編集した、初めての公式ドキュメンタリー映画が日本公開。公私にわたって50年間サンローランのパートナーだったピエール・ベルジェへのインタビューを軸に、当時の貴重な映像の数々を編集。監督はベルジュと10年前から付き合いがあり、写真家で造形美術家でもあるピエール・トレトン。本物のアートやファッション、高い美意識に触れることのできるドキュメンタリーであり、サンローランとベルジュのパートナーシップや日常を描くヒューマンドラマである。

’02年に引退会見をし、6年後の’08年に72歳で他界したイヴ・サンローラン。壮麗な葬儀には大勢の人々が弔問に訪れ、ベルジェは檀上からサンローランに宛てた手紙を読みあげる。この世を去りゆく恋人への思い。サンローランが素晴らしいパートナーであったこと。そして葬儀の後、ピエールは2人でコレクションしてきた美術品の数々をオークションへ出品する。

イヴ・サンローラン

サンローランは17歳でクリスチャン・ディオールのアシスタントとなり、21歳で後継デザイナーに大抜擢。「フランスの国宝ともいえるブランドのデザイナーにアルジェリア出身の若造が」という反発もある中、その鮮烈な実力をコレクションに打ち出し、時代の寵児に。1960年9月1日にフランス軍に徴兵されるも、9月20日には神経衰弱のため精神病院へ。サンローランはもともと折り合いが悪かったディオールの経営者から解雇され、’61年にはベルジェの支えによって自身のブランド、イヴ・サンローランを創立する――。サンローランのよく知られている事実からその裏側にある事情まで、本作では関係者だからこそ語ることのできる内容がさらりと描かれている。

当時の映像にはプライベートなものもあり、サンローランとベルジュそれぞれのキャラクターや役割分担、しっかりと結ばれたパートナーシップが伝わってくるところが興味深い。サンローランのデザイナーとしてのはなやかなキャリアと成功、内気で繊細な青年としての孤独や苦悩、その両面を経営者として恋人としてベルジェがサポートしている。エディターで文学通でもあるベルジェは、19歳の頃にアルベール・カミュら作家たちが協力する雑誌『ラ・パルティ・モンディアル』を創刊したことでも知られ、ジャン・コクトーの作品の著作者人格権なども認められている人物。本作ではサンローランにまつわるベルジェの淡々とした証言がナレーションとなっていて、彼が自らの言葉をとても巧みに操ることに驚いた。事実を言うだけだと身も蓋もないことでも、文学的かつ叙情的に表現し、聞く側に良いイメージを印象づけている。こうした演出力、プロデュース能力もサンローランの公私の大きな支えとなっていたのだろう。

見どころは本作で初披露となる映像や写真の数々。トレトン監督が膨大な資料から何十時間もかけて選別したのだそう。そこにはサンローラン&ベルジュの素の姿もたっぷりと収められている。なかでも注目は、トレトン監督がNYのダンボールの中から見つけてきたという映像。アンディ・ウォーホルのファクトリーで、アンディが描いたサンローランの絵を見ながら、サンローランがウォーホルやミック・ジャガーたちと談笑しているシーンだ。ベルジェ本人も一度も見たことがなかったそうで、「あれは記憶としてよく覚えているけれど、(映像として)あったことすら不思議だし、あれを撮っていた人がいたことが不思議です。まさかあるとは思っていなかったので、すごく嬉しい。映画で初めて見て驚きました」とコメントしている。

イヴ・サンローラン

劇中ではモンドリアン・ドレスをはじめ、サンローランを代表するアイテムを見ることができるのも楽しみのひとつ。また’09年2月にパリのグランパレで開催のオークションに出品された、イヴの私的なアートコレクションも圧巻。その中には、1860年の第二次アヘン戦争における北京侵攻の際、英仏軍が円明園から略奪したことで国外に流出したという、いわくつきのネズミとウサギの頭部のブロンズも登場。中国側から取引停止の提訴をされ、値はついたものの取引はしなかったことでも話題になった骨董だ。オークションに出品した700点の美術品は約750億円の売上となり、ピエール・ベルジェ - イヴ・サンローラン財団に寄付されたそうだ。

イヴ・サンローラン

社会で働く活動的な女性たちのためにマスキュリンかつエレガントな服を作り、プレタポルテ(高級既製服)のブティックを開店してモード界を牽引。フランスではいちデザイナーというより、文化を象徴する担い手の1人として敬愛されてきたイヴ・サンローラン。この映画についてベルジェは、「嬉しくて大好きな作品。私の人生を丸裸にされた感じです。フィクションでもドキュメンタリーでもない。サンローランと私という人間をフォーカスしているので、カテゴライズするのであれば、ドキュメンタリー+ヒューマンの物語であると思います」とコメント。フランス語の原題は『L'AMOUR FOU(狂おしい愛)』である本作。説明が少なく、ファッションやアートについてある程度知っている方が確実に楽しめるものの、サンローランとベルジュの愛の記録としての側面も大きい。最後にサンローランとの50年に渡るパートナーシップを大切にしてきたベルジュより、長く続く愛の秘訣についてメッセージを。「彼とともに何かを創ったこと、彼の才能を充分に頼り、2人でモードの世界を変えていくというプロジェクトを一緒にがんばってきた、というところが鍵だと思う。(フランスの作家)サン=テグジュペリが言っていることで好きな言葉があります。“愛するということはお互いを見つめあうことではなく、ともに同じ方向を見つめることだ”」。

作品データ

イヴ・サンローラン
公開 2011年4月23日公開
TOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー
制作年/制作国 2010年 フランス
上映時間 1:43
配給 ファントム・フィルム
仏題 L'AMOUR FOU
英題 YVES SAINT LAURENT - L'AMOUR FOU
監督・脚本 ピエール・トレトン
脚本 エヴ・ギルー
出演 イヴ・サンローラン
ピエール・ベルジェ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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