シャンハイ

アメリカ、中国、日本の演技派俳優たちが共演
太平洋戦争開戦直前の上海に生きる人々を描く
ハードボイルドなサスペンスと哀感のラブロマンス

  • 2011/07/29
  • イベント
  • シネマ
シャンハイ© 2009 TWC Asian Film Fund, LLC. All rights reserved.

出演は、脚本や製作なども手がけるジョン・キューザック、中国を代表する女優コン・リー、ハリウッドとアジア双方の映画界で活躍するチョウ・ユンファ、国際的に認められている渡辺謙、ハリウッドでも積極的に活動している菊地凛子ほか。アメリカ、中国、日本の演技派俳優たちが、太平洋戦争開戦直前の混沌とした上海を生きる人々のドラマを描く。監督は’11年の映画『ザ・ライト ―エクソシストの真実―』を手がけたスウェーデン出身のミカエル・ハフストーム。あるアメリカ人スパイ殺害事件をきっかけに、さまざまな思惑をもつ男女の運命が交錯する。事件の真相とその目的とは? 確かな史実を背景に描くサスペンスであり、哀感あるラブロマンスである。

1941年の太平洋戦争開戦前夜、日本軍占領下にある上海に、アメリカの諜報員ポール・ソームズがやってくる。が、現地で会う約束をしていた親友コナーは“日本租界”で殺害され、コナーの愛人スミコは失踪。ソームズは事件の調査を開始する。上海ヘラルド紙の記者に扮したソームズは、友人であるドイツ領事館の技師夫人レニを頼り、有力者が集まるパーティへ。そこで日本人と取引をして汚れ仕事を請け負う上海三合会のボス、アンソニー・ランティンとその妻アンナと知り合い、日本軍大佐のタナカを紹介される。

政治的な思想と葛藤、愛や裏切り、そして各々が貫く信念を描く、サスペンスにしてラブロマンス。イギリス、フランス、アメリカ、日本が租界(中国で外国人が居留する地区の警察・行政権を、各国がそれぞれに掌握した組織や地域)をかまえて牽制し合っていた当時の上海が、史実に基づいて描かれている。登場人物は実在した何人かの人物をモデルに合成しているのでは、と日本の歴史学者である山本武利教授が本作の資料にて推測。特に映画の前半部分では、当時の上海のシビアな情勢や緊張感を伝えている。

ジョン・キューザック、コン・リー

アメリカの諜報員ソームズ役はキューザックが手堅く好演。殺人事件の犯人を追いながらも、アンナに惹かれていく様を自然に表現している。上海の裏社会を仕切るランティン役はユンファが重厚な迫力と存在感で演じ、その妻アンナ役はリーが強固な意志をもつファム・ファタルとして演じている。そして日本軍大佐タナカ役は渡辺謙が眼光鋭く、コナーの愛人スミコ役を演じる菊地凛子はセリフも登場シーンも少ないものの、重要なシーンに関わっている。またコナーの上司リチャード役はデヴィッド・モースが演じているなど、ベテラン俳優の出演も。

本作のプロデューサー、マイク・メダヴォイは、まさにこの作品の舞台となっている1941年の上海で生まれたとのこと。このドラマには思い入れがあり、脚本家のホセイン・アミニとともに10年かけて物語を練り上げたそうだ。撮影中は“西洋人が描く奇妙なアジア”にならないように、スタッフは俳優たちの意見を積極的に取り入れたとも。監督はスウェーデン出身、俳優はアメリカ、中国、日本、ドイツから、ロケ場所がタイやイギリスだったことから、現場では英語のみならずさまざまな言語が飛び交い、劇中のミックスカルチャーによる無国籍な雰囲気が、現場にもあっただろうことがうかがえる。

ロケは上海での撮影が叶わなかったことから、イギリスやタイにて。イギリスでは主に屋内シーンを、タイでは主に屋外シーンを撮影。ロンドンではランティンの邸宅としてアールデコ調のエルトン・パレス、上海ヘラルドのオフィスとして1930年代に立てられたフリーメイソン・ホール、ソームズとレニが密会するシーンではネオ・ビザンチン様式によるカサノバ・レストランを使用。一方タイでは300人のスタッフによって巨大なオープンセットが3ヶ月かけて建設され、10棟以上の建物や道路、大型客船が作られたそうだ。

チョウ・ユンファ、コン・リー

本作には南京虐殺や真珠湾攻撃を行った日本に対する’40年代のアメリカ側の冷ややかな視点があり、5月に公開された映画『マイ・バック・ページ』にはベトナム戦争に反対し、アメリカの政策に反発した’60年代の日本側の視点があった。どちらの作品も社会情勢は背景としてあるのみで、あくまでも人間ドラマとして描かれているものの、過去からつながる今について、考えさせられるものがある。

チョウ・ユンファ、渡辺謙

太平洋戦争が終結した1945年より、日本で“戦没者を悼み平和を祈る日”となった8月15日の終戦記念日から、日本が降伏文書に調印し国際的に終戦の日と認識されているという9月2日の間に公開される本作。各国の演技派俳優たちによるサスペンスやラブロマンスというだけでなく、ほんの70年前にこうした時期があったということを知り得る機会としても、意味のある作品かもしれない。

作品データ

シャンハイ
公開 2011年8月20日公開
丸の内ピカデリーほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2010年 アメリカ
上映時間 1:45
配給 ギャガ
原題 SHANGHAI
監督 ミカエル・ハフストローム
プロデューサー マイク・メダヴォイほか
脚本 ホセイン・アミニ
出演 ジョン・キューザック
コン・リー
チョウ・ユンファ
菊地凛子
渡辺謙
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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