頭脳派の当麻&肉体派の瀬文、ガチンコタッグが復活
SFでサスペンス、コメディにしてスペクタクル
堤 幸彦監督の演出が冴えわたる、渾身のSPEC再臨!
根強いファン層を獲得した2010年のテレビドラマ『SPEC』が遂に映画化。出演はドラマから引き続き戸田恵梨香、加瀬 亮、神木隆之介、椎名桔平、竜 雷太、福田沙紀、映画からの共演は栗山千明、伊藤淳史、三浦貴大、でんでん、浅野ゆう子ほか。監督は『ケイゾク』『トリック』の堤 幸彦、脚本はテレビドラマ『ダブル・キッチン』『ケイゾク』『SPEC』を手がけた西荻弓絵。警視庁公安部の特別捜査官であるキレキャラコンビの当麻と瀬文が、特殊能力(=SPEC)に目覚めた者たちが引き起こす難事件に挑む。SFでスリラーでサスペンス、コメディにしてスペクタクル。8割のギャグで観る者の心と体を解きほぐし、2割のドラマで濃い世界観にグイッと引き込む、堤演出で磨き上げられた作品である。
通常の捜査では解決できない特殊な事件を専門に扱う部署「警視庁公安部公安第五課未詳事件特別対策係」通称“未詳(ミショウ)”。特別捜査官の当麻紗綾(とうま・さや)と瀬文焚流(せぶみ・たける)は、洋上のクルーザーで発生した「ミイラ死体殺人事件」の調査を開始。一方、瀬文は元恋人の青池里子と現場で再会する。そしてあるスペックホルダーから未詳あてに、殺人とメッセージを記録した脅迫ビデオが届く。
脱力系のギャグ満載にして、迷いや苦悩、信頼や絆、シリアスな人間ドラマの芯はガッチリと。スタイリッシュな映像とサウンド、アナクロなギャグ。コメディもシリアスもイケる達者な役者陣による、まさにSPECばりの演技合戦。これらのエッジとふり幅に、脳が心地よく刺激される快感は映画版でも期待通りだ。連続ドラマの最終回から1年後の設定で、’12年4月1日にスペシャルドラマ『SPEC〜翔〜』が続編として発表され、『劇場版 SPEC〜天〜』でさらなる新展開へ。当麻の左手、瀬文が当麻に抱く疑念、迫りくる強大なスペックホルダーたちの影。シンプル・プランとは? ファティマ第三の予言とは?
ドラマと同様に演技合戦とギャグの応酬もありながら、映画ではエンターテインメントとしてスクリーンで存分に楽しめるド派手なCGも。時間が止まる瞬間を映す“タイムスライス”として、クライマックスのシーンでは36台のカメラでぐるりと囲んで撮影。ドラマ最終回の約3倍のカメラ数とのことで、よりレベルアップした、ポップアートのような斬新な映像が楽しめる。またアナクロなギャグを若手俳優たちに繰り返し言わせたり、レトロな人名ネタで中山律子(プロボウラー)、ローラ・ボー(プロゴルファー)といった50代以上でないと解説ナシではわからない雄叫びがあったりと、クドい笑いがこれでもかと波状攻撃さながらに繰り出される。ある種、少年コミックを非常に上手く実写化したかのような、たとえば高橋留美子の世界を彷彿とさせるかのような。堤監督はギリギリまで編集していた際、思いついてはギャグを足し、そのたびに戸田と加瀬を呼び出してはギャグを言わせて再録する、ということを繰り返したとも。堤監督が完成披露記者会見で、「裏事情ですので、今日ここだけの話にしていただきたいのですが……」と語った時にはこんなことも。「脚本がものすごく難解で、哲学的。深いんです。私は演出家という立場上、『わからない』とは言えない。『ここに書かれているすべてを把握しています』と言いながら、(出演者から)質問がくる前にギャグを言って逃げる。ゆえにギャグばっかりなんです。だから実は、ギャグはもっとたくさんあるんです。そして、だいたい半分ぐらいのギャグは編集で捨てちゃう。つまりこの作品はギャグの屍の上に成り立っていると言っても過言ではないんです(笑)」。
高いIQで口も態度も悪い変人・当麻役は戸田が熱演。ボサボサ頭にグレーのダサいスーツで餃子をむさぼり、口臭は常にニンニク臭いというヒロインにあるまじきキャラクターにどっぷりと浸かり、その内にある葛藤や衝動も全身でくっきりと演じている。警視庁特殊部隊(SIT)出身、体育会系の超リアリスト、堅物の瀬文役は加瀬が力演。いつもの癒し系の草食男子ぶりはカケラもなく、テンション高く迷いなく、青スジたてて怒鳴る殴る蹴るという肉体派を痛快に表現している。本作の真の見どころである、当麻と瀬文の間に信頼が取り戻せるか、というところを2人がとても繊細かつ絶妙に、引きすぎず押しすぎない塩梅で演じ切っているところも好い。瀬文の元恋人で日本語があやうい帰国子女の青池役は栗山が、その部下で実直な宮野役は三浦が、未詳の新しい係長の市柳役はでんでんが、スペックホルダーのマダム陽役は浅野が、俳優の伊藤敦史という本人役で伊藤が、それぞれに好演。また当麻が生き別れになった実の弟でスペックホルダーのニノマエ役に神木、瀬文の死んだ部下の妹であるスペックホルダーの美鈴役に福田、未詳の係長から係長待遇に降格した野々村役に竜、特殊能力対策特務班警視庁公安部公安零課の幹部である津田役に椎名ほか、おなじみの面々も活躍している。撮影では、現場でどんどん書き換えられる台詞、追加されるギャグ、設定まで変更してゆくアップテンポな堤演出が、今回も冴えていたとのこと。完成披露記者会見で出演者たちが笑いながらそのことに触れるたび、堤監督は「すみません」と答えていた。
堤監督が「手塩にかけて、細かいところまでがんばって作った作品」と明言する本作。謎を残したまま最終回となったテレビドラマ版から、スペシャルドラマ“翔”でその謎が明かされ、映画版“天”で次なるステージへ。SPECファンはモヤッとしていた内容が判明して、スッキリするのでは。個人的には、“翔”で気弱になった人間に当麻がハッパをかける場面や、瀬文が気合でエールを叫ぶシーンなどが入れ込まれているところに、今の日本へのメッセージを感じて沁みるものも。さて、「癸(起)」「翔(承)」「天(転)」ときたら、この次に「結」にいくだろうことは誰もが期待していることで。とはいえ筆者もドラマ放映時からファンだったため、「あと1回で終わってしまうなんて……」という思いも。できることなら製作陣、出演者ともに体力・精神面ともに耐えうる限り、突っ走り続けてほしい、といち視聴者としてリクエストしたいくらいだ。ともあれ、あれもこれもすべてはまだ先のこと。まずは今春の“翔”“天”から。それでは! は〜りきって! どうぞッ☆
公開 | 2012年4月7日公開 全国東宝系にてロードショー |
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制作年/制作国 | 2012年 日本 |
上映時間 | 1:59 |
配給 | 東宝 |
監督 | 堤 幸彦 |
脚本 | 西荻弓絵 |
音楽 | 渋谷慶一郎 ガブリエル・ロベルト |
出演 | 戸田恵梨香 加瀬 亮 伊藤淳史 栗山千明 三浦貴大 でんでん 浅野ゆう子 神木隆之介 椎名桔平 竜 雷太 福田沙紀 |
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