トータル・リコール

フィリップ・K・ディック原作の人気SFを再映画化
記憶を操作された男が、恋人とともに苛烈な逃亡劇を展開
設定も新たに近未来を描く、シリアスなサスペンス・アクション

  • 2012/08/10
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トータル・リコール

映画『ブレードランナー』『マイノリティ・リポート』の原作者として知られるアメリカの伝説的なSF作家フィリップ・K・ディックが、1967年に発表した短編小説『We can remember it for you wholesale(旧邦題:追憶売ります)』を原作に、’90年にアーノルド・シュワルツェネッガー主演で映画化された『トータル・リコール』を再映画化。出演は『マイアミ・バイス』のコリン・ファレル、『アンダーワールド』シリーズのケイト・ベッキンセール、『特攻野郎AチームTHE MOVIE』のジェシカ・ビール、『パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド』のビル・ナイほか。監督は『ダイ・ハード4.0』のレン・ワイズマン。いつのまにか記憶を書き換えられた男は、自身を取り戻すことができるのか。本当に信じられるものとは? 近未来の地球を舞台に、激しいアクションとバトルが繰り広げられるSFアクションである。

21世紀末の地球。人々は科学戦争の末に正常な環境を失い、居住区域は限られた土地のみに。富裕層はブリテン連邦「UFB」に、労働者層はその裏側にある「コロニー」に住み、世界は2つの地域に分断されていた。コロニー市民であるダグラスは毎日、UFBへ労働力として唯一の移動手段「フォール」で通い、アンドロイド工場に勤務。ふと単調な日々に嫌気がさしたダグラスは、人工記憶センター「リコール社」へ。気ばらしに新しい記憶を植えつけようとしたそのとき、UFBの警官隊が突入。ダグラスは襲いかかってきた警官隊全員をとっさに倒し、自分の並外れた戦闘能力に困惑しながらも、自宅へ戻って妻のローリーに事情を話す。

カーチェイスに銃撃戦に肉弾戦、激烈なバトルがたたみかけるかのように次々と展開し、ハリウッドらしい大がかりなアクションにどっぷりと浸る仕上がり。キッチュな雰囲気であそびのある’90年版から12年、美術やデジタルなど技術の進化もあり、近未来のアイテムはリアルな要素のあるものに、物語はよりシリアスなサスペンスとなっている。

コリン・ファレル、ジェシカ・ビール

本作のストーリーでは、原作と前作に登場する火星と月というキーワードはなく、近未来の地球における支配勢力とレジスタンスの対立を描く。製作スタッフはもともとこの映画を前作のただのリメイクにするつもりはなかったそうで、ワイズマン監督は「フィリップ・K・ディックが小説の中で作り上げたコンセプトに惹かれて、この映画を監督したいと思った」とコメントしている。

劇中の大半にアクションシーンがあり、役者たちは皆できるだけ自身でスタントを実践したとのこと。ダグラス役のファレルは肉体的なトレーニングに加えて物語の精神性にもフォーカスし、「アイデンティティ、自我、そして超自我の問題がでてくる。そんな心理学的な領域に入っていくのは楽しかったよ」とコメントしている。ダグラスの“妻”という名の監視員ローリー役はベッキンセールが、記憶操作をされる前の恋人メリーナ役はビールが演じ、女同士の血湧き肉躍るバトルは見どころのひとつ。スタイルもアクションも抜群の美人女優2人が血みどろの闘いを繰り広げる、というあたりは観客の期待に十二分に応えている。そしてUFB代表コーヘイゲン役のブライアン・クランストン、UFBに敵対するレジスタンスのリーダー、マサイアス役のビル・ナイとベテラン勢がしっかりと脇を支えている。

’90年の作品でシュワルツェネッガーとシャロン・ストーンが演じて話題となった熾烈な夫婦バトルは、ファレルとベッキンセールの顔合わせでモダンに表現。劇中では“死が2人をわかつまで”という結婚の誓いの言葉がシニカルに使われたり、美しい妻と恋人がものすごい破壊力の拳とキックでケリをつけようしたり、愛と結婚を皮肉めいてブラック・ジョークにしているようなニュアンスも。最強の悪妻か鬼嫁か、夫ダグラスを執拗に追跡するローリー役のベッキンセールは、実生活ではワイズマン監督の愛妻だったりして。2人はもともとホラー・アクション『アンダーワールド』シリーズをきっかけに結婚した夫婦であり、こうした内容で充実のタッグを組めてしまうあたり、どんなことも一緒にたのしみながら糧にしていく夫婦の信頼関係にちょっと感じ入るものも。

コリン・ファレル、ケイト・ベッキンセール

近未来のさまざまなアイテムや美術セットは、前作にない新しいものやちがう表現などが楽しめる。個人的には空中を疾走する“ホバーカー”の大がかりなカーチェイスより、地球のこちら側と裏側を行き来するエレベーター式の巨大な乗り物“フォール”に惹かれる。筆者は絶叫マシーン類が苦手なものの、このフォールなら乗ってみたい。地球のコアの脇を通過して無重力状態ののちに重力が反転するとか、理論にリアリティのあるところがワクワクさせる。また手のひらに埋め込み式の携帯、首につけると立体映像で違う人物の顔になれるリングなど、ユニークなガジェットもいろいろ。前作に登場し、SF映画『ポール』などでオマージュとして描かれている人気キャラ、3つの乳房をもつ女性は今回も登場。ほんのいっときのセクシーショット(?)なのでお見逃しなく。

ケイト・ベッキンセール

ここ数年SFのみならず、過去の名作の再映画化が多い映画界。ハリウッドのネタ切れというだけでなく、不朽の名作やヒット作を今の技術、現代のスタッフやキャストの感性で製作したらどうなるか、ということはいち映画ファンとして確かに興味深い。今回のように前作とは違うテイストで勝負しようとするもよし、単純にリメイクとして製作しながらオリジナルを上回る予想外の成功もよし。ときには「なぜこんなことに……」という仕上がりの場合もあれど、それもまた次への礎となるとして。観客のきもちや世情のニーズに応えるテーマや物語、エンターテインメントであるなら、支持され受け入れられるだろう。この作品は果たしていかに。

作品データ

トータル・リコール
公開 2012年8月10日公開
丸の内ピカデリーほか全国ロードショー
制作年/制作国 2012年 アメリカ
上映時間 1:58
配給 ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
原題 TOTAL RECALL
監督 レン・ワイズマン
脚色 カート・ウィマー
マーク・ボンバック・ワイズマン
原作 フィリップ・K・ディック
出演 コリン・ファレル
ケイト・ベッキンセール
ジェシカ・ビール
ビル・ナイ
ブライアン・クランストン
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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