伏 鉄砲娘の捕物帳

直木賞受賞作家・桜庭一樹の小説をアニメーションで映画化
猟師の少女は江戸にゆき、人の魂を喰う“伏”の少年と出会う
はじけるような躍動感と繊細な情感で描くアクション奇譚

  • 2012/10/12
  • イベント
  • シネマ
伏 鉄砲娘の捕物帳©桜庭一樹・文藝春秋/2012映画「伏」製作委員会

直木賞受賞作家・桜庭一樹が2010年に発表した『伏 贋作・里見八犬伝』をアニメーションとして映画化。監督はスタジオジブリ作品『千と千尋の神隠し』の助手からキャリアをスタートし『亡念のザムド』の監督を手がけた宮地昌幸、脚本は『少女革命ウテナ』の小説版などを執筆し『コードギアス 反逆のルルーシュ』の原案・構成・脚本をつとめた大河内一楼、ビジュアルイメージは『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』のokama。腕のいい猟師の少女・浜路は山をおりて江戸へゆき、人と犬との間に生まれ人の魂を喰う“伏(ふせ)”の少年・信乃と出会う。約200年前の作品でありながら大勢の作家たちに影響を与え、モチーフとされてきた滝沢馬琴の『南総里見八犬伝』をもとに、オリジナルの世界を展開。初恋や友情や家族愛などの普遍的なテーマを軸に、男と女、人と獣、将軍と町人、山の者と町の者、狩るものと狩られるもの、相対する者同士の関係と成り行きを描く。はじけるような躍動感と繊細な情感で惹きつけるアクション・ファンタジーである。

山で生まれ育った猟師の少女・浜路は、祖父の死をきっかけに兄・道節のいる江戸へ。江戸では人と犬の血をひき人の生珠(いきだま)を喰らう“伏”に懸賞金がかけられ、将軍・徳川家定より“伏狩り”が発令されていた。喧騒に満ちた江戸で文字も読めず地理もわからず戸惑う浜路は、犬の面をつけた白い髪の青年・信乃と出会う。信乃の道案内で兄妹の再会をした浜路は、兄とともに伏狩りをはじめ、思いがけない場所である人物が伏であることを見抜く。

「猟師と獲物の間には、見えない糸があるという」。相対するからこそ引き合わずにいられない。理屈を超えたところにある世の理(ことわり)をドラマとしてわかりやすく展開。個人的には、監督も脚本もともに男性でありながら、“母性”という女性の本能的な面がとてもくっきりと描かれていることに驚きが。女性作家である桜庭氏の原作を丁寧にくみつつ、少女の成長物語としてシンプルに練り上げられている感覚だ。なかでも吉原の太夫・凍鶴の死にざまと手紙のくだりには沁みるものも。

伏 鉄砲娘の捕物帳

原作者の桜庭一樹は、1999年に『夜空に、満天の星』で第1回ファミ通エンタテインメント大賞(現在はエンターブレインえんため大賞)小説部門に佳作入選し、2000年に同作を『AD2015隔離都市 ロンリネス・ガーディアン』と改題して作家デビュー。’07年に『赤朽葉家の伝説』で第60回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編部門)を受賞、2008年に『私の男』で第138回直木三十五賞を受賞。また’03〜’11年に断続的に執筆された『GOSICK -ゴシック-』シリーズは’11年にTVアニメ化され、本作は桜庭氏原作による初の劇場用アニメーションとなる。

声の出演はメインに声優陣を配し、猟師の少女・浜路役に寿美菜子、伏の少年で若衆歌舞伎の役者である信乃役に宮野真守、滝沢馬琴の孫・冥土役に宮本佳那子、浜路の兄の浪人・道節役に小西克幸、飯屋を切り盛りする女性・船虫役に坂本真綾、吉原の太夫・凍鶴役に水樹奈々、信乃を狙う刺客の馬加役に神谷浩史、将軍・徳川家定役に野島裕史ほか。そして滝沢馬琴役に桂歌丸、浜路に兄からの手紙を届ける住職役に竹中直人、道節と同じ長屋暮らしの子持ちのやもめ世四郎役に劇団ひとりなど俳優たちの起用も。また馬琴の息子の嫁で馬琴の口述筆記をするお路役で、主題歌「蝶々結び」を歌うミュージシャンのCharaも参加している。

伏 鉄砲娘の捕物帳

江戸時代が舞台でありながら、和洋折衷のオリエンタルな雰囲気、オリジナルのアイデアやデザインも取り入れられ、アニメーションらしい映像の面白味もたのしめる本作。いきいきとして愛嬌のあるキャラクター、リズムとキレのある爽快な躍動感、どこか素朴でやさしい雰囲気、自然と都会の対比など、スタジオジブリと重なるイメージもあり、幅広い層になじみやすい仕上がりだ。男女を逆転させた『もののけ姫』のようでもあり、特殊なスキルをもつ女の子が都会に出て自立し成長するエピソードとして『魔女の宅急便』も思い出した。

伏 鉄砲娘の捕物帳

本作の原作『伏 贋作・里見八犬伝』は’10年に発表され、同年に現代美術家・鴻池朋子の挿絵とオリジナル音楽をあわせたアニメーション仕様で電子書籍化(iPhone,iPad版)。今回の映画化は〈文藝春秋創立90周年記念作品〉として、文藝春秋が初めてアニメーションの製作に本格的に進出したことも話題となっている。映画化と連動して、’12年3月より“桜庭一樹と八人の伏師たち”として、“伏”の世界をテーマに8人のクリエイターとのコラボレーション企画もスタート。Hakusによるコミック化『伏 少女とケモノの烈花譚』、ニトロプラスによるドラマCD『伏 銀華と氷刃の猟奇録』などメディアミックスによる展開も。本や雑誌の取り扱いだけでは斜陽ともいわれる出版業界で、老舗も新たな取り組みへ。今回の“伏”プロジェクトは、エンタメファンの反応やいかに。

作品データ

伏 鉄砲娘の捕物帳
公開 2012年10月20日公開
テアトル新宿ほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2012年 アメリカ
上映時間 1:50
配給 東京テアトル
監督 宮地昌幸
原作 桜庭一樹
脚本 大河内一楼
ビジュアルイメージ okama
人物設計 橋本誠一
音楽 大島ミチル
出演 寿美菜子
宮野真守
宮本佳那子
小西克幸
坂本真綾
水樹奈々
神谷浩史
野島裕史
桂歌丸
竹中直人
劇団ひとり
Chara
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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