恋のロンドン狂騒曲 試写会日記 毎週、熱田美希から映画ファンの皆さんへ熱いメッセージ!傑作でも愚作でも、映画ってやっぱり素敵!!
恋のロンドン狂騒曲

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人の愚かさや情けなさに、いとおしさやゆるしが沁みる
ロンドンを舞台に人生哲学を軽いタッチで含ませて
混戦する恋愛事情をコミカルに描くアンサンブル・ドラマ

 老いも若きも恋のからさわぎで右往左往。ウディ・アレンの新作は、ロンドンを舞台に描く軽妙なラブ・コメディ。出演は『愛する人』のナオミ・ワッツ、『トゥルー・グリット』のジョシュ・ブローリン、オスカー俳優アンソニー・ホプキンス、『ブリジット・ジョーンズの日記』のジェマ・ジョーンズほか。結婚40年目の夫婦とその娘夫婦、2組の夫婦は新たなパートナーにそれぞれ目を向けはじめ……冗談をいったり些末なことでケンカをしたり、演技派の役者たちがふつうっぽいことがなかなか可笑しく。息抜きがてらさらりと楽しむ、人生哲学を軽いタッチで含ませた群像劇である。

 ある日突然、死の恐怖に襲われたアルフィは、それ以来猛然と若返りのトレーニングに没頭。40年連れ添った妻と離婚し、実の娘よりも年下のコールガールと付き合うように。アルフィのもと妻ヘレナは自殺未遂をしたのち、あやしげな女性占い師にハマってゆく。そしてアルフィとヘレナの娘サリーは、処女作しか売れない“一発屋作家”ロイとの夫婦関係があやうい状態に。サリーは勤務先のギャラリーのオーナーである既婚者のグレッグに憧れ、ロイはお向かいに暮らす窓越しの美女ディアの姿を眺めては逃避するように。そして日々のやりとりやいさかいから、彼らの関係はどんどん転がりだし……。

アンソニー・ホプキンス、ナオミ・ワッツ

 ホプキンスやブローリンら、画面に彼らが映るだけで「事件か犯罪か!?」という深刻さが増す、重厚な演技派で知られる俳優たちが、軽いタッチのラブ・コメディをたのしんでいるところが好い。淡々とした日常生活や恋愛事情というストーリーをこれだけの役者たちで軽々とやってのける贅沢は、アレン作品ならではだろう。

 若返りマニアで体を鍛え、“青い錠剤”をのむアルフィ役はホプキンスがユーモラスに。コールガールを恋人にし、娘夫婦にあきれられ、彼女とのジェネレーションギャップに戸惑う姿を演じている。アルフィのもと妻ヘレナ役は、ジョーンズが憎めない感覚で。善良でアル中、どこでもアルコールを飲み、ソフトな話しぶりで地雷を踏んでは場を混乱させるあたり、アレン作品らしいキャラクターだ。アルフィとヘレナの娘サリー役は、ワッツがしっかり者の雰囲気で。子どもを望んでいるものの夫との生活が立ちゆかず……というアラフォー女性のリアルな感覚を表現している。サリーの夫で医学をおさめながら作家となった、インテリの“一発屋作家”ロイ役は、ブローリンがふてくされた様子で。サリーの上司グレッグ役は、アントニオ・バンデラスがセクシーな成功者としてわかりやすく。アルフィの彼女シャーメイン役にエロいギャル系のルーシー・パンチ、ロイに興味をもつ赤い服の美女ディア役に『スラムドッグ$ミリオネア』のフリーダ・ピントが出演。遊び好きの派手な金髪グラマー美女と、オリエンタルで知的な黒髪の文系美女、2人が物語に華を添えている。

ナオミ・ワッツ、 ジェマ・ジョーンズ

 「騒ぐ響きと怒りはすさまじいが、意味は何ひとつない物語」。映画のはじまりとおわりに、シェイクスピアの四大悲劇のひとつ『マクベス』の言葉を引用したことについて、アレンは語る。「登場人物たちは皆、人生の中に意味を見つけようとかけまわったり、野心や成功、愛を見つけようとする。走りながら互いにぶつかったり傷つけ合ったり、間違いを犯す。常にカオスだ。でも100年後にはここにでていた登場人物たちはすっかり消えてしまうし、さらにその100年後には新しい人たちの一団が登場する。そして野心も憧れも盗作も密通も、かつて大変なことと思われていたものはすべて何の意味もなくなるだろう。今から何年も先には太陽が燃えつきて地球は消滅し、さらにその先には宇宙全体もなくなる。たとえ永遠の命をもたらす薬を見つけたとしても、永遠というのは限られた数字なんだ。なぜなら永遠なんていうものは、決して存在しないから。すべては響きと怒りなんだ。そして最後には、意味なんてまったくなくなるんだよ」。そんな“諸行無常”の感覚をもちながらも映画を撮り続けていることについては、「気分転換なんだ。それ自体がちいさな挑戦だし、結果的に恐ろしい考えから僕の気を紛らわせてくれるんだよ」とコメントしている。

 いくつかの混戦する恋愛事情を、登場人物それぞれの視点から描いてゆくアンサンブル・ドラマ。揶揄や誇張という皮肉な人間洞察だけでなく、人の愚かさや情けなさに対して、どこかいとおしさやゆるしなどの心境をしみじみと感じさせるのは、はなやかな女性遍歴で知られるアレン自身の実体験を通しているから、ということだろうか。アレンはヘレナというキャラクターを手厳しく語りながらも、苦しみの乗り越え方について言及する。「ヘレナはほかの誰よりもイカれてるんだ。僕たちがみんなが暮らすこの悲劇的な世界で、人は幸せを見つけることができる。ただし頭がイカれていて、おとぎ話の妄想を選んで、現実に目隠しをしてしまえばね。誰もがそれぞれのやり方で恐ろしい苦境を否定し、何かを正当化しようとしていると思う。そうやって人生をやりぬいているんだ。常に現実を否定し、芸術の永続性とか森羅万象の意義といった幻想、死後の世界、あらゆる種類の幻想といったものを常に求めている」。本作のラストシーンはまるで1枚の美しい絵葉書さながら、“幸福感”そのものを視覚化したかのよう。思うにこれは、「こういう人たちだけが幸せになれる」ということではない。「こんな奇妙な具合でも幸せになれる」という受け取り方で、いいのではないだろうか。

『恋のロンドン狂騒曲』
2010年 アメリカ=スペイン合作
データ
2012年11月2日更新
フリーダ・ピント、ジョシュ・ブローリン
オフィシャルサイト
『恋のロンドン狂騒曲』

2012年12月1日公開
TOHOシネマズ シャンテほかにて
全国ロードショー

■2010年 アメリカ=スペイン合作
■上映時間1:38
■ロングライド配給
■原題/『You Will Meet a Tall Dark Stranger』
■監督・脚本/ウディ・アレン
■出演/アントニオ・バンデラス
ジョシュ・ブローリン
アンソニー・ホプキンス
ジェマ・ジョーンズ
フリーダ・ピント
ルーシー・パンチ
ナオミ・ワッツ




プロフィール
 
あつた美希 あつた美希
あつた美希
フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。