C・イーストウッド主演、“唯一の弟子”R・ロレンツが初監督
不器用な父娘の岐路と周囲のあたたかいサポートを描く
人の底力を丁寧に描き出す、実直なヒューマンドラマ
クリント・イーストウッドが自ら監督・プロデュース・主演をつとめた映画『グラン・トリノ』以来、4年ぶりに俳優として出演。監督・製作はイーストウッドの“唯一の弟子”といわれ、彼のもとで長年にわたり助監督や製作、プロデューサーとして活躍し、本作で監督デビューとなるロバート・ロレンツ。出演はイーストウッド、『ザ・ファイター』のエイミー・アダムス、俳優活動も増えてきたミュージシャンのジャスティン・ティンバーレイクほか。メジャーリーグのスカウトマンを長年つとめる父親の病を知り、弁護士の娘はサポートを申し出るが……。相容れない親子の対立、組織で生きる高齢の古株の立場、仕事と親のサポートの両立、恋愛関係など、普遍的なテーマを描く。イーストウッド監督作品さながら、人の心情や底力を丁寧に描き出すヒューマンドラマである。
大リーグで一流のスカウトマンとして何十年も活動してきたガスは、所属球団の契約更新まであと3ヶ月。コンピューターのデータ分析を使わず、目で実際に見る昔ながらのやり方を通す彼のスタイルに、「古い」と不信感を抱く若手もいる。そしてガスは近ごろ目が見えにくくなってきたことを、誰にも言わずにいた。そんな折、全米で注目を集めている高校生バッターをドラフト指名するかどうか、見極めのため現地へ向かうことに。この仕事にガスの進退がかかっていることを案じた親友のピートは、ずっと離れて暮らしているガスの娘で、大手法律事務所の弁護士であるミッキーに、ガスの旅に同行するようにもちかける。ミッキーは自身が共同経営者に昇進できるか否かというチャンスの最中、悩んだ末に父の旅先ノース・カロライナへと向かう。
ブルースギターが静かに流れ、偏屈な老齢の男は自らのある部位と対話し、よろよろと歩いて机にぶつかり蹴り上げる。イーストウッドの“偏屈オヤジ”ぶりは、いつだってどこか憎めない。このはじまりで充分につかまれてしまう。劇中では、イーストウッド演じるガスが口ずさむ「You Are My Sunshine」が深く染み入る。“ここで泣いてください”というシーンで涙がにじむのも、この作品だとわるくない。
役者がキャラクターによくハマッている本作。ガス役はイーストウッドが頑固で不器用な老齢の父親を好演。似た者同士である娘との向き合い方がわからず、いつも不毛な言い合いになる様子もリアルだ。6歳で母と死別し、父親から親戚に預けられ寄宿学校で育ち、父親への不信感をもつ娘ミッキー役は、アダムスがくっきりと。父へのわだかまりから他者に心を開けない心情を率直に表現している。キャッチボールからバッティングまで、アダムス自身がたのしそうにしっかりとできているところもいい。またガスがスカウトしてピッチャーとなり、今はライバル球団のスカウトをしているジョニー役はティンバーレイクがチャーミングに。元スター選手で陽気な華があり、ミッキーに惹かれて険悪な父娘の間をとりなす様子など、一見軽薄なようでいて現場で落ち着いて対処できるタイプということに妙に説得力がある。またガスの親友で父娘を案じるピート役にジョン・グッドマン、ブレーブスのスカウト主任補佐フィリップ役にマシュー・リラード、アトランタ・ブレーブスのGMヴィンス役にロバート・パトリック、ガスの仲間のスカウトマンたちをエド・ローター、チェルシー・ロス、レイ・アンソニー・トーマス、ミッキーの法律事務所の敏腕弁護士たちをジョージ・ワイナー、ボブ・ガントン、ジャック・ギルピンと脇を固めている。そしてガスがスカウトし、スランプに苦しむ大リーガーのビリー役を、イーストウッドの息子スコット・イーストウッドが演じ、父子の共演シーンも。
現在82歳のイーストウッドは語る。「俳優業はもうしないと思ったことがあったが、今回はおもしろい役が回ってきたからやってみた。ストーリーが気に入った。この脚本の素晴らしいところは、みんなが共感できること。この映画は親子のジレンマがテーマだから、全世界の人たちが共感できるものだよ」。本作のストーリーに魅せられ、長年の目標だった監督デビューを果たしたロレンツは、「クリントにとてもいい役があったこと、しかも彼が演じることに興味を示したことは、私にとってこれ以上望めないような幸運だったよ」とコメント。物語について、「この映画のキャラクターたちは皆、それぞれにとって重要な変化の時期にひとつの場所に集まってくる。彼らは皆、ある意味、人生の旅の途中であり、今いる場所からさらに進むためには、自分自身について何かを見つけなければならない。それが何であろうと、次のことに取り組むにはそれが必要なんだ」と語っている。
仕事一筋で高齢の父、男性優位の業種で昇進を目指す娘、父娘を見守る仲間たち。そしてサポートし合う家族や男女の関係、データやテクノロジーで測りきれない人間のひらめき。昔ながらのテーマやサウンドで、それぞれの人生の岐路を描く本作。イーストウッドは語る。「どんなに気がのらなくても、私たちは皆、人の助けを求めるということを学ばなければならない。それがとにかく現実なんだ。警戒を緩め、誰かを受け入れると、意外ともっと強くなれるものだ」。ロレンツ監督は続ける。「私にとって、このストーリーの重要なテーマは、“粘り強さ”なんだ。この映画のキャラクターたちは皆、困難に直面し、これ以上は無理というところまで追い詰められる。でも、うまくいかせたければ、それがどんなことであっても、そこでがんばってのりこえていかなければならないんだよ」。地味ながら人肌のぬくもりを感じさせる、実直なヒューマンドラマである。
公開 | 2012年11月23日公開 丸の内ピカデリーほかにて全国ロードショー |
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制作年/制作国 | 2012年 アメリカ |
上映時間 | 1:51 |
配給 | ワーナー・ブラザース |
原題 | TROUBLE WITH THE CURVE |
監督・製作 | ロバート・ロレンツ |
製作 | クリント・イーストウッド ミシェル・ワイズラー |
脚本 | ランディ・ブラウン |
出演 | クリント・イーストウッド エイミー・アダムス ジャスティン・ティンバーレイク ジョン・グッドマン マシュー・リラード ロバート・パトリック ジョー・マッシンギル エド・ローター チェルシー・ロス レイ・アンソニー・トーマス ジョージ・ワイナー ボブ・ガントン ジャック・ギルピン スコット・イーストウッド |
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