レ・ミゼラブル 試写会日記 毎週、熱田美希から映画ファンの皆さんへ熱いメッセージ!傑作でも愚作でも、映画ってやっぱり素敵!!
レ・ミゼラブル

© Universal Pictures

名作ミュージカルを一流のスタッフ&キャストで映画化
全編がライヴ録音された歌と音楽のみでほぼ構成され、
臨場感あふれる名曲の数々と熱い心情がせまりくる傑作

 1980年にフランスのパリで初演。そして1985年にイギリスのロンドンで上演がスタートして以来27年、いまも上演中という異例のロングラン公演を記録し続けている戯曲を充実のスタッフ&キャストで映画化。出演は映画『X-メン』で知られ、2004年にブロードウェイ・ミュージカル『ザ・ボーイ・フロム・オズ』でトニー賞ミュージカル主演男優賞を受賞したヒュー・ジャックマン、映画『グラディエーター』のオスカー俳優ラッセル・クロウ、『プラダを着た悪魔』のアン・ハサウェイ、『マンマ・ミーア!』のアマンダ・セイフライド、『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』のヘレナ・ボナム=カーターとサシャ・バロン・コーエンほか。監督は『英国王のスピーチ』で2011年の第83回アカデミー賞にて監督賞を受賞したトム・フーパー。舞台版より、ロンドン舞台版の生みの親である製作のキャメロン・マッキントッシュ、作・脚本のアラン・ブーブリル、作・脚本・作曲のクロード=ミッシェル・シェーンベルク、脚本・作詞のハーバート・クレッツマーが参加。撮影現場で俳優たちが実際に歌いライヴ録音をする、というミュージカル映画として至難な挑戦をやってのけ、臨場感あふれる歌と熱い心情がせつせつと胸にせまる傑作である。

 1815年のフランス、ツーロン。妹の子どものため、ひとつのパンを盗んだ罪で19年間服役したジャン・バルジャン。仮出獄するが前科者としてさげすまれて心がすさみ、親切に庇護してくれた司教のもとから銀の食器を盗んでしまう。司教はその罪を責めることなく赦し、曇りない真心にふれたジャンは自らを深く恥じ入り、生まれ変わることを決意する。1823年のモントルイユ、ジャンは別人としてマドレーヌと名乗り、強靭な意志と努力によって工場経営で成功をおさめて市長になっていた。そして女工から娼婦へと身をおとしたファンテーヌから愛娘のコゼットを託されたジャンは、執拗に彼を追う警官ジャベールの追手をかわしてパリに潜伏する。1832年のパリ、ジャンが育ての父として愛情を注ぎ大切に育てたコゼットは美しい娘へと成長。街で出会った青年マリウスと恋をする。フランスは7月革命によって立憲君主制に移行するも、貧富の格差から革命の気運が高まり、マリウスをふくむ学生たちは武装蜂起をする。

アン・ハサウェイ

 世界42カ国、21の言語による舞台のみならず、世界中で映画化やドラマ化されている名作を、イギリスでミュージカル映画に。純粋なセリフは15〜20行ほど、全編が歌と音楽で構成されている映画というと、ドラマ性に不安をおぼえる向きもあるだろう。そこは本作の大きな特徴、撮影現場で台詞のように感情をこめて俳優たちが歌った歌をライヴ録音する、という非常に挑戦的な手法が劇的な効果をもたらし、フーパー監督の演出とあいまって生々しい迫力と絶妙なストーリー展開を感じさせる仕上がりとなっている。歌のライヴ録音を決断したことについて、監督は語る。「大胆だけど正しい選択だと思った。俳優たちには厳しい挑戦だったけれど、それでなくては得られない演技上の自由をわたしたちに与えてくれた。3ヶ月も前に自分が行ったパフォーマンスに縛られずに、その場で演技ができるからね。演技がその瞬間に自然でリアルなものになった」。

 “スターとしての魅力、俳優としての実力、歌手としての技量”をそなえた理想的なメンバーとして、監督が「完璧な俳優陣の嵐」とよぶ出演者たちは全身全霊で熱演。正直、スター俳優たちの歌にここまで引き込む力があるとは思っていなかったので意表を突かれた。ジャン・バルジャン役はジャックマンが深い苦悩と葛藤、不屈の気骨と胆力、広く高くほどけてゆく精神性を表現。ジャックマンは映画ではアクション俳優のイメージが色濃くあったが、この役を機に演技派として重厚な人間ドラマを描く文芸作品など幅が一気に広がることは間違いない。刑務所の監督官として警官としてジャンを執拗に追い続けるジャベール役は、クロウが誇り高く。「ラッセルがあんなに圧倒的な存在感のある歌手で、もともとミュージカル俳優として俳優活動を始めたなんて知らなかった」と監督もコメントしている。娘を養うため娼婦となるファンテーヌ役はハサウェイが演じ、名曲「夢やぶれて(I Dreamed a Dream)」ではかつての愛と希望、深遠な絶望を歌い上げ、滂沱の涙をさそう。舞台女優だったハサウェイの母がレ・ミゼで女工のひとりを演じ、ツアー中にファンテーヌを演じたこともあった、という逸話も興味深い。ファンテーヌの娘、成長したコゼット役はセイフライドが明るく生き生きと。彼女はいつも愛と希望の象徴というヒロインがよく似合う。コゼットに恋をする青年マリウス役は舞台と映画の両方で活躍する若手俳優エディ・レッドメインが純朴に、コゼットの里親テナルディエ夫妻役は、ボナム=カーターとバロン・コーエンが底意地わるくユーモラスに。そしてマリウスに思いを寄せるエポニーヌ役は、本作が映画デビューとなる若手女優サマンサ・バークス。舞台版で同役を演じてプロデューサーのマッキントッシュに認められ、今回の抜擢に。エポニーヌがマリウスへの叶わぬ思いを歌う「オン・マイ・オウン(On My Own)」の表現力は本当にすばらしく、いじらしい。またストリートキッズのガブローシュ役はダニエル・ハトルストーンが小生意気に、子役ながら歌にも演技にも安定と余裕がありこれからの成長がたのしみだ。そして舞台で1985年のロンドン初演と1987年のブロードウェイ初演でジャン役を最初に演じた俳優コルム・ウィルキンソンが司教役を演じていることをはじめ、ロンドン舞台版の俳優たちも多数出演しているとも。

ラッセル・クロウ、ヒュー・ジャックマン

 本作に対するフーパー監督の献身と情熱を高く評価して、製作のマッキントッシュは語る。「トムはこの映画を監督したい理由のひとつとして、『レ・ミゼラブル』のレ・ミゼラブル(虐げられしものたち)こそ愛している、といった。ヴィクトル・ユゴーの小説は、まさにそういう小説なんだ。ジャン・バルジャンとジャベールの物語だけでなく、私たちすべての物語なんだよ」。本作ではレ・ミゼのメインテーマとして知られる罪と贖罪、死と開放、信仰と救いをおおきく包み込むかのように、全編にわたり弱者への慈愛、家族愛、男女の愛とさまざまな人間愛が奥深くいきわたり、とてもゆさぶられるものがある。フーパー監督は語る。「この小説は並はずれて見事な小説だから、映画に脚色するにあたって、たびたび読み直す機会を得られて楽しかった。ミュージカルを映画化するために、独特な解釈をさせてもらったよ。(舞台版のスタッフ)みんなが私に任せてくれたから。彼らはミュージカルをただ映像化したかったのではなく、映画としてうまくいくように解釈しなおしてほしいと思っていたんだ。クロード=ミッシェルの音楽はとてもすばらしく、アランとハーバートの歌詞はとても力強かったから、そういう再解釈が可能だった。彼らの仕事はとても幅があって柔軟で、すぐれた文学がどれもそうであるように、意味とペースをいじることが可能な言葉になっているんだ」。’13年の映画賞で評価を得ることは必定のおおいなる人間讃歌。つらく苛酷な悲劇だけに終わらない。「民衆の歌(The People's Song)」は高らかに力強く響きわたる。どんなときも希望はかならず継がれ、永く紡がれてゆくと。

『レ・ミゼラブル』
2012年 イギリス映画
データ
2012年12月21日更新
アマンダ・セイフライド、エディ・レッドメイン
2012年12月21日公開
TOHOシネマズ 日劇ほかにて
全国ロードショー

■2012年 イギリス映画
■上映時間2:38
■東宝東和配給
■原題/『Les Miserables』
■原作/ヴィクトル・ユゴー
■監督/トム・フーパー
■製作/キャメロン・マッキントッシュ
■作・脚本/アラン・ブーブリル
■作・脚本・作曲/クロード=ミッシェル・シェーンベルク
■脚本・作詞/ハーバート・クレッツマー
■出演/ヒュー・ジャックマン
ラッセル・クロウ
アン・ハサウェイ
アマンダ・セイフライド
ヘレナ・ボナム=カーター
サシャ・バロン・コーエン
エディ・レッドメイン
サマンサ・バークス
ダニエル・ハトルストーン
アーロン・トヴェイト
コルム・ウィルキンソン




プロフィール
 
あつた美希 あつた美希
あつた美希
フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。