世界にひとつのプレイブック 試写会日記 毎週、熱田美希から映画ファンの皆さんへ熱いメッセージ!傑作でも愚作でも、映画ってやっぱり素敵!!
世界にひとつのプレイブック

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真剣なのに滑稽、無様なのに胸に響く!
愛にまつわる挫折と再起で周囲を巻き込み七転八倒
デヴィッド・O・ラッセル監督が描くホットな人間ドラマ

 出会ったときの共通の話題は精神安定の薬の種類、初めてのデートでは警官がかけつけるほどの大ゲンカ。常軌を逸した2人は愛と人生を取り戻せるのか。出演は、“ハングオーバー!”シリーズの人気俳優ブラッドリー・クーパー、『ウィンターズ・ボーン』『ハンガー・ゲーム』で認められた若手女優ジェニファー・ローレンス、オスカー俳優ロバート・デ・ニーロ、ベテランのジャッキー・ウィーヴァーほか。監督・脚本は、第83回アカデミー賞にて2部門を受賞した『ザ・ファイター』のデヴィッド・O・ラッセル。真剣で懸命だからこそ間抜けで滑稽になることもあれば、無様で間が悪くても胸に響くこともある。愛にまつわる挫折と再起、男と女の七転八倒の様相を描く恋愛ドラマにして、味わい深いヒューマンドラマである。

 妻の浮気相手を激しく殴り倒したパットは、8ヵ月間入院することに。心のバランスを取り戻しきれないまま実家に戻ると、妻は家を売り払い、自らへの接近禁止命令をだしていた。妻とやり直すため自分を律する努力をするがうまくいかない。そんな折、パットは挑発的な女性ティファニーと出会う。夫を亡くしたショックと喪失感から過激な言動にはしる彼女に混乱し振り回されながら、パットは妻に受け入れてもらう第一歩として手紙を書くことに。妻とつながりのあるティファニーに手紙を渡す相談をすると、ダンスコンテストにパートナーとして出場するなら引き受ける、と言い放つ。

ブラッドリー・クーパー、ジャッキー・ウィーヴァー、クリス・タッカー

 「過去を含めて自分が好きよ。あんたに同じことが言える?」「あんたは人生を楽しむのが怖いのよ」。ティファニーがパットにぶつける本音は生々しく、ある種のすがすがしさがあるほど。惹かれあい反発しあう2人のやりとりやパワーバランスが笑いや共感を誘う。ランニングのシーンで彼女が真顔で機敏にフレームインするところは何度みてもおかしい。観ているとだんだん「くるぞくるぞ…きたッ!」となり、まるでコントさながらだ。

 本作のそもそもの始まりは、アメリカの作家マシュー・クイックの小説『The Silver Linings Playbook』の映画化権を、『愛と哀しみの果て』でアカデミー賞監督賞を受賞したシドニー・ポラックが、『イングリッシュ・ペイシェント』でアカデミー賞監督賞を受賞したアンソニー・ミンゲラとともに取得。ラッセル監督はポラックから小説をよむようにすすめられ、その世界にひきつけられたそう。そこでラッセル監督はすぐに脚色に取りかかるも、製作費などの事情で『ザ・ファイター』を先に製作。そうしたなか、ミンゲラとポラックが2008年に相次いで他界。ラッセル監督は“この小説を映画化したい”という2人の名匠の遺志を継ぎ、ついに完成させたそうだ。

 パット役はまじめすぎて変人、ありのままの自分を受け入れようと心をくだく姿をクーパーが好演。どこか憎めないキャラクターはいつもながら彼自身の持ち味が生かされている。コケティッシュなティファニー役はローレンスが辛辣にユーモラスに表現。果敢にきりこんでゆく強気さとパットを思う健気さの両面を魅力的に演じている。2人の相性についてラッセル監督は、「僕はロマンスが大好きだ。ブラッドリーとジェニファーの間に生じる化学反応は、明らかに燃え上がりやすいもの。これは贈り物だった」とコメントしている。第2の人生のための資金をアメフトの試合に賭けてしまうパットの父親役はデ・ニーロが、夫と息子を溺愛して高カロリーなソウルフードをせっせと作る母親役はウィーヴァーが演じ、状況をますますこじらせてゆく様子が可笑しい。2013年の第85回アカデミー賞では、作品賞、監督賞をはじめ8部門でノミネート。ひとつの映画で主演男女・助演男女の全演技部門にノミネートされたのは、1981年 の『レッズ』(ウォー レン・ベイティ監督)以来32年 ぶりとのこと。アカデミー賞史上でも14本のみだそうだ。

ブラッドリー・クーパー、ロバート・デ・ニーロ

 劇中ではスティーヴィー・ワンダーのヒット曲「My Cherie Amour」がキーワードに。今も世界中で流れている万人が認める名曲だけに、“問題の曲”となる経緯は皮肉で説得力がある。またティファニーとパットの2人がコンテストで踊るダンス・メドレーの最初には、スティーヴィー・ワンダーの「Don't You Worry 'Bout A Thing」のさわりも。遊び心をもって音楽を効果的に用いている。

 アメリカのある地域で、挫折したひとが、風変わりな家族とかかわり、パートナーのサポートを得て復帰を目指す。ラッセル監督の前作『ザ・ファイター』にどこか通じる面も感じられる本作について、監督は語る。「人々は自分たちが直面した問題に、たいていは自分たちの力で、自分たちが住む地域の自分たちの住む家で、せつないほど苦しい思いをしながら、どうにか乗り越えていく。僕は結局、そんな人々の生活をのぞき見るのが好きなんだ。ある場所、ある時、ある食べ物、ある風習……ほかとは違っていても、愛や尊敬、人生に対するあらゆる思いとあこがれはきわめて普遍的なものだ」。“プレイブック”とは、アメフトのチームがそれぞれにもつ作戦図のこと。誰もがそれぞれのプレイブックを描き、のぞむほうへと向かうことができる。率直でシンプルなメッセージがすとんと届く、ホットなヒューマンドラマである。

『世界にひとつのプレイブック』
2012年 アメリカ映画
データ
2013年2月8日更新
ブラッドリー・クーパー、ジェニファー・ローレンス
オフィシャルサイト
『世界にひとつのプレイブック』

2013年2月22日公開
TOHOシネマズ六本木ヒルズほかにて全国ロードショー

■2012年 アメリカ映画
■上映時間2:03
■ギャガ配給
■原題/『Silver Linings Playbook』
■監督・脚本/デヴィッド・O・ラッセル
■原作/マシュー・クイック
■製作/ブルース・コーエン
ブラッドリー・クーパー
■出演/ブラッドリー・クーパー
ジェニファー・ローレンス
ロバート・デ・ニーロ
ジャッキー・ウィーヴァー
クリス・タッカー




プロフィール
 
あつた美希 あつた美希
あつた美希
フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。