インポッシブル

スマトラ島沖地震の津波被害をうけた実話をもとに
夫婦と3人の子どもたちにおきた出来事を描く
関係者への取材を重ねて練り上げた家族の物語

  • 2013/05/17
  • イベント
  • シネマ
インポッシブル© 2012 Telecinco Cinema, S.A.U. and Apaches Entertainment, S.L.

2004年12月26日に発生したスマトラ島沖地震。この大規模な津波被害に遭ったある家族の実話をもとに描く。出演は本作のテーマ性に賛同した演技派のナオミ・ワッツとユアン・マクレガー、本作が国際的な映画デビューとなるトム・ホランドほか。監督はJ・A・バヨナ、脚本はセルヒオ・G・サンチェス、ともに初の劇場向け長編作品となる2008年の映画『永遠のこどもたち』でタッグを組み、高い評価を受けたスペイン人のコンビが手がける。関係者への取材を重ね、丁寧に練り上げた家族の物語であり、そのときの出来事を真摯に伝える作品である。

ナオミ・ワッツ、ユアン・マクレガー、トム・ホランド、オークリー・ペンダーガスト、サミュエル・ジョスリン

2004年12月24日、イギリス人のベネット一家が休暇を楽しむため、タイ南部のビーチ、カオラックにあるオーキッド・リゾート・ホテルへ。ヘンリーと元医師である妻マリアと3人の息子たちは、クリスマスをおだやかに楽しんでいた。滞在3日目の12月26日、ベネット一家が海に面するプールですごしていると地震がおこり、海岸から椰子の木がドミノ倒しに倒れてくるやいなや巨大な津波が押し寄せてくる。瞬く間にあたり一帯が濁流に飲み込まれ、マリアは溺れかけながらも流されてゆく長男ルーカスの姿をとらえ、名前を叫んだ。
「これは私たちの物語ではないわ。多くの、本当に多くの人々の物語なの」。スマトラ島沖地震の大津波の被害を受けたベロン一家に、バヨナ監督が「あなたたちの物語を語る映画を作りたい」と伝えたとき、妻マリアのモデルとなったマリア・ベロンが答えたという言葉だ。一家の話がラジオで放送され、それを製作のベレン・アティエンサが聴いたことから始まったという本作。バヨナ監督が「映画にすべきだ」と言い、脚本家のサンチェスをはじめ賛同したメンバーで準備を始めたとのこと。ベロン一家にとって自分たちの過酷な経験を他者にゆだねることは容易ではなかったそうだが、製作チームと話し合ううちに気持ちが変わっていったそう。そしてマリア・ベロンは、自分たちの物語が自分たち自身をはるかに超えた大きなものであり、それを語ることは家族にとっても精神的な浄化作用になることに気づいたそうだ。

トム・ホランド、ナオミ・ワッツ

妻マリア役は、家族や子供たちを守ろうとするひとりの女性の姿をワッツが丁寧に表現。妻と子を思う父親ヘンリー役はマクレガーがあたたかく、長男ルーカス役はホランドが少年の精神的な成長を表現し、次男のトマス役はサミュエル・ジョスリンが、末っ子のサイモン役はオークリー・ペンダーガストがかわいらしく演じている。マクレガーは語る。「僕とナオミはふたりとも子どもをもつ親だし、作りものの家族ではなくリアルな夫婦像にしたいと思った。僕には4人子どもがいるけれど、これまで映画で親を演じたことが一度もなかった。僕はヘンリーをもっと自分に近づけたい、この恐ろしい大災害を背景に親であることを掘り下げたいと思ったんだ」。本作で感じた責任についてワッツは語る。「実際の出来事に基づく映画には、やりやすさと難しさがあるわ。やりやすいのはそこに真実の声があることだけど、同時にプレッシャーでもある。人々が本当に体験したことを尊重し、できるだけ信憑性のあるものにする責任と、そのとき感じたことをできるだけ誠実に伝える責任が私たちにはあったの」。マクレガーも続ける。「実話を語るとき、演じる人々に対しての責任がある。でもこの映画では、これまで出演したどの作品よりも、津波の衝撃を受けた人たち全員に対して僕は責任を感じた。亡くなった人たちに、生き残った人たちに、そしてタイの国民に。もし津波がただのドラマ上の背景として使われていたら、僕は動揺しただろう。でもそれは僕たちがやろうとしていたことではなかったんだ」。

ユアン・マクレガー

インド洋周辺国で22万人以上の死者と行方不明者をだした大津波と、そこで生き延びた家族の物語。劇中には体がギュッとこわばるほど生々しい津波のシーンがあり、プレステキストの最後には注意書きで「※本作には津波の再現シーンがございます」という表記がなされている。津波の映像はデジタルではなく3万5000ガロン以上の水を実際に使い、特殊効果と視覚効果のプロが1年かけて作り上げ、何度もテストを繰り返したとのこと。バヨナ監督が語る。「僕らはサバイバル映画に取り組んだだけではない。誰のために、そしてどんなふうに生き残りたいのかという問題も提起している。そこには悲劇を乗り越える人間について語る力強さがあるんだ」。2011年の東日本大震災で大規模な津波被害を受けた日本で、すすめられる作品なのかどうかは難しい。容易に風化されることではない、ということを改めて痛感する。津波被害の実話をドラマとして伝える物語である。

作品データ

インポッシブル
公開 2013年6月14日公開
TOHOシネマズ シャンテほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2012年 スペイン・アメリカ
上映時間 1:55
配給 プレシディオ
原題 THE IMPOSSIBLE
監督 J・A・バヨナ
脚本 セルヒオ・G・サンチェス
原案 マリア・ベロン
出演 ナオミ・ワッツ
ユアン・マクレガー
トム・ホランド
サミュエル・ジョスリン
オークリー・ペンダーガスト
ジェラルディン・チャップリン
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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